当事務所では、定期的に勉強会を開催し、各弁護士の知識や経験を共有し、研鑽を積んでおります。
本日の勉強会では、不動産競売についての発表がありました。
発表者が不動産競売の競売手続の流れを細かく説明し、各弁護士がそれぞれ経験に基づいて議論したり、手続を進める上で注意しなければならない点を発言していきます。
今回の勉強会でも、知らなかったことを学び、注意しなければならない点を確認することができました。
事務所に入所したばかりの頃は、勉強会で複雑な議論になった際に、話についていけないこともありました。
しかし最近では、私の経験について発言したり、議論に参加することができるようになり、自分が少し成長していることが実感できます。
また、自分の理解が深まっていると、文献や判例を読むときに、勉強する前よりも理解が早くなり、調べもの自体が楽しくなってきます。
調べたり報告したことについて、実際の相談や事件処理に生かすことができた時には嬉しく感じます。
どんな事件にも、時間をかけて調査し、理解を深められる点が必ずあります。
ご依頼いただいた方の問題解決に活かせるよう、今後も研鑽を積んで行こうと思っております。
投稿者 小山法律事務所 | 2016年1月29日 20:18
よくわかる相続の法と税務(3)
弁護士 小山治郎
今回は3年以内の贈与があった場合の設例で相続税を検討します。
設例3
A(被告相続人)は、妻B、長男C、長女Dを残して亡くなりました。遺言はなく、遺産は次のとおりです。
預金 5000万円
上場株式 5000万円
債務(葬式費用等を含む) 2000万円
Aは、Bを受取人とする5000万円の生命保険に加入していました。また2年前にCに対し、自宅の建築資金として2000万円を贈与していました。
1 遺産分割
遺産分割において、法定相続分に応じて分割し、上場株式はBが取得することにしました。またBは生命保険金5000万円を取得していますので、債務2000万円はBが負担することにしました。
遺産総額
預金5000万円+上場株式5000万円+特別受益(建築資金)2000万円
=1億円2000円
各相続人の相続分
B
1億円2000万円×1/2=6000万円
内訳 上場株式5000万円 預金1000万円
但し、債務2000万円を負担、そのほか生命保険金5000万円
C
1億2000万円×1/2×1/2-2000万円=1000万円
内訳 預金1000万円
Dさん
1億2000万円×1/2×1/2=3000万円
内訳 預金3000万円
債務2000万円につき、Bが全部負担しても債権者は相続人全員に対し、法定相続分に応じて請求できますが、相続税法上は遺産分割での合意に基づき課税価格を計算します。
2 課税価格の計算
生命保険金(みなし相続財産)にかかる非課税財産の計算
法定相続人の人数×500万円=3×500万円=1500万円
各相続人の課税価格は次のようになります。
B C D 合計
本来の相続財産 60,000,000 10,000,000 30,000,000
みなし相続財産 50,000,000
非課税財産 △15,000,000
債務控除 △20,000,000
生前贈与加算 20,000,000
合計 75,000,000 30,000,000 30,000,000 135,000,000
3 相続税の総額の計算
課税価格の合計は1億3500万円と計算されましたので、これから基礎控除額を差し引き、法定相続人が法定相続分に応じて相続したと仮定して相続税の総額を計算します。基礎控除額は、新法によると
3000万円+法定相続人の人数×600万円となります。
したがって本件では
3000万円+3×600万円=4800万円
となります。
よって、基礎控除後の課税価格は
1億3500万-4800万円=8700万円
となりますので、相続税はかかります。
次に各人の相続税を計算し合計します。
Bさん 8,700万円×1/2×0.15-50万円=602万5000円
Cさん 8,700万円×1/2×1/2= 217万5000円
Dさん 217万5000円
相続税の総額 1037万5000円
4 算出税額の計算
相続税の総額が出ましたので、各人の算出税額を計算します。按分割合は2で計算した課税価格を基に計算します。
B 75,000,000÷135,000,000=0.556
C 30,000,000÷135,000,000=0.222
D 30,000,000÷135,000,000=0.222
合計 1.000
按分割合は、割り切れない場合、合計が1になるように小数点2位未満を調整します。
各人の算出税額は次のとおりです。
B 1037万5000円×0.556=576万8500円
C 1037万5000円×0.222=230万3200円(100円未満切り捨て)
D 230万3200円
5 納付すべき税額
① 配偶者の税額軽減額の計算
Bについては、被相続人の配偶者ですので、配偶者の税額軽減があります。次の算式による税額が控除されます。
相続税の総額×法定相続分又は1億6000万円の多い方/課税価格の合計
本件では 1037万5000円×1億6000万円/1億3500万円
=1229万6200円となります。
したがってBの算出税額より軽減額の方が多いので、Bに相続税はかかりません。
② Cの場合は、贈与税額控除があります。
Cは2年前に建築資金として2000万円の贈与を受けていますので、この時贈与税を支払っているはずです。その分を税額控除しないと二重課税となってしまいますので、Cの算出税額から控除します。
また建築資金の場合、特例により平成25年の贈与税法では700万円(普通の住宅用家屋)の控除が認められています。
そこでCが2000万円につき納付した贈与税は
(20,000,000円-7,000,000円-1,100,000円)×0.5-225万円
=370万円
となります。
一方Cの算出相続税は230万3200円ですから、
230万3200円-370万円=△139万6800円
となり、139万6800円が還付されることになります。
③ Dにつては、特に税額控除はないようですので、納税額は、230万3200円となります。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年11月 8日 09:00
よくわかる相続法と税務(2)
弁護士 小山治郎
今回は比較的簡単な相続事例をもとに各相続人の相続税まで計算をしてみましょう。
設例2
A(被相続人)は、配偶者B、長男C、次男D、そして長女Eを残して死亡しました。遺産は、預金7000万円だけです。
Aは、3000万円の生命保険契約があり、自分で保険料を支払い、受取人をBと指定していました。
長男Cは、Aから5年前に1000万円の贈与を受けています。
長女Eは相続放棄しました。
Aの遺言はありません。
1 遺産分割
遺産分割では、各相続人の合意によりどのようにでも分割できますが本件
では法定相続分に基づき分割することにしました。
しかし遺産は預金7000万円だけですが、Cには1000万円の特別受益(民法903条)がありますので、計算上これを7000万円に加算することになります。贈与を持ち戻すとき、相続開始時点の価額で評価しますが、貨幣価値は5年前と変わりないものとして、加算すべき金額は1000万円とします。一方、生命保険金については、前回も述べましたように受取人固有の権利として特別受益には当たりません。
各相続人の相続分は以下のとおりとなります。
B (7000万円+1000万円)×1/2=4000万円
C 8000万円×1/2×1/2- 1000万円=1000万円
D 8000万円×1/2×1/2=2000万円
E 相続放棄しているので相続分なし
2 相続税の課税価格の計算
まず各相続人の課税価格を計算し、それを合計します。
① B
本来の相続財産 4000万円
みなし相続財産 生命保険金 3000万円
非課税額 △2000万円
5000万円
生命保険金の非課税額は以下のように計算します。
非課税限度額=500万円×4=2000万円(法定相続人の人数には相続放棄した人も含みます)
本件で生命保険金を取得した者はBだけですから、非課税限度額2000万円全てをBが使えます。
② C
本来の相続財産 1000万円
1000万円
Cは、5年前に1000万円の贈与を受けていますが、課税価格の計算上無視されます。相続税法上課税価格に加算されるものは3年以内の贈与のみです。
③ D
本来の相続財産 2000万円
2000万円
以上から課税価格の合計は、5000万円+1000万円+2000万円
=8000万円となります。
3 相続税額の総額の計算
まず、課税価格の合計額から基礎控除額を控除します。控除額は、課税の公平の観点から、相続放棄した人も含めて、5000万円+1000万円×4=9000万円と計算されます。
したがって基礎控除後の金額は、8000万円-9000万円
=△1000万円となります。
基礎控除後の金額がマイナスになる場合、どのように遺産分割をしようと相続税は一切かかりません。
しかし、平成27年1月1日以降の相続については、基礎控除の計算式は次のようになります。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数
よって新法に基づき、本件の基礎控除額を計算すると
基礎控除額=3000万円+600万円×4=5400万円
となり、基礎控除後の課税価格は
8000万円-5400万円=2600万円
となり、相続税がかかることになります。
あと1年余りで新法が適用されますので、以下、新法を基に相続税の総額を計算してみましょう。
(1)法定相続人が法定相続分に応じて相続したと仮定してそれぞれの相続税
額を計算します。法定相続人には相続放棄した人も含みます。これは相続放棄した人を入れないと、相続税は累進課税ですので相続税総額が大きくなり、相続放棄した人がいない場合との間で不公平が生じるからです。
Bの課税価格 2600万円×1/2=1300万円
Cの課税価格 2600万円×1/2×1/3=4,333,000円
(千円未満切り捨て)
D、Eの課税価格 4,333,000円
次に各人の課税価格に相続税率を乗じて相続税を計算します。相続税の税率表を基に計算します。
Bの税額 1300万円×0.15-50万円=145万円
C、D、Eの税額 4,333,000×0.1=433,000円
よって相続税の総額は
145万円+433,000円×3=2,749,900円
となります。
4 各相続人の算出税額の計算
各相続人の算出税額は、相続税の総額に按分割合を乗じて計算します。
按分割合は、2で計算した各相続人の課税価格を課税価格の合計で除して算定します。割り切れない場合は、小数点2位未満を相続人間で調整できます。
Bの按分割合
5000万円÷8000万円=0.625
Cの按分割合
1000万円÷8000万円=0.125
Dの按分割合
2000万円÷8000万円=0.25
次に各相続人の算出税額を計算します。相続税の総額は3で計算した
2,749,900円
です。
Bの算出税額
2,749,900円×0.625=1,718,600円
(100円未満切り捨て)
Cの算出税額
2,749,900円×0.125=343,700円
Dの算出税額
2,749,900円×0.25=687,400円
5 各相続人の納付すべき相続税額
納付すべき相続税額は、算出税額に基づき、配偶者税額軽減、贈与税控除、未成年者税額控除などを適用して算出されます。
① Bの納付すべき税額
BはAの配偶者ですので、次の算式による税額が軽減されます。
相続税の総額×法定相続分又は1億66000万円の多い方÷課税価格の合計額
本件では、
274万9900円×1億6000万円÷8000万円=549万9800円
したがって本件では税額軽減額がBの算出税額を上回りますので、Bには相続税がかかりません。
② C、Dさんの納付すべき税額
C、Dが未成年者であれば、一定額の税額控除があります。
Cは、Aから1000万円贈与を受けていますが、5年前ですので、贈与税額控除はありません。3年以内でしたら、贈与額を課税価格に加算して算出税額を計算した上、納めた贈与税相当額が控除されます。この規定は近い将来の相続を予期して相続税回避目的で贈与するのを防ぐ趣旨です。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年11月 1日 09:00
よくわかる相続の法と税務(1)
弁護士 小山 治郎
設例1
Aさん(被相続人)は次のような遺言をして死亡しました。
「預金5000万円は長男Bに相続させる。次男Cは5000万円の保険金の受取人になっているので、債務2000万円については、Bとともに1000万円ずつ負担する。」
しかしCさんは、1000万円の債務だけ負担する遺言に不満でしたので、相続放棄を考えています。法定相続人はBさんとCさんだけです。
この設例で、Cさんが相続放棄をした場合としない場合で、相続税の課税上どのような差異が生じるか検討してみましょう。
1 相続放棄をした場合
まず、生命保険は受取人がCさんと指定されていますので、Cさんは保険金の5000万円を取得することになり、これは遺産を構成しません。Aさんが保険料を負担していた生命保険契約の保険金は、受取人Cさんの固有の権利であり、原則として、特別受益(民法903条)にもならないとするのが判例です(平成16年10月29日最高裁判決)。したがってCさんは相続放棄をしても保険金5000万円を固有の権利として取得できます。
次に相続税の課税価格はどうなるかを検討します。
まず相続税の課税価格は、この場合、以下のようになります。
本来の相続財産 預金5000万円
みなし相続財産 生命保険金5000万円
債務の控除額 債務△2000万円
差引課税価格の合計 8000万円(基礎控除前)
Aさんは、債務につき、B、Cが1000万円ずつ負担するようにと遺言していますが、Cさんが相続放棄をした以上Bさんは債務2000万円を全額相続することになります。確かに遺言は法定相続に優先しますが、債務については債権者の意思を無視して被相続人が処分することはできません。そして相続人は被相続人の有した権利・義務をすべて引き継ぐことになっていますので、この場合、Bさんは相続人になった以上債務全額を相続することになるのです。
また、生命保険は前述しましたように民法上遺産を構成しませんが、被相続人の死亡を原因として取得する財産ですから、相続税法上は課税の公平・担税力
を考慮し、遺産とみなすことになっています。
2 相続を放棄しなかった場合
この場合、相続税の課税価格は以下のようになります。
本来の相続財産 預金5000万円
みなし相続財産 生命保険金5000万円
非課税財産 △1000万円
債務控除 債務△2000万円
差引課税価格の合計 7000万円(基礎控除前)
Cさんが相続放棄しなかった場合、課税価格の合計は7000万円になり、相続放棄をした場合より、1000万円少なくなります。
相続税法では、生命保険につき、相続人1人当たり500万円の非課税限度額を認めています。すなわち非課税限度額は500万円×法定相続人の人数で、本件では1000万円となります。生命保険金5000万円のうち1000万円は非課税財産とされ、課税価格の計算上控除されるのです。
しかしCさんが相続放棄した場合、Cさんは非課税限度額を利用できないのです。この非課税限度額計算上の法定相続人の人数には相続放棄した人も含み、Cさんが相続放棄をしても非課税限度額は1000万円あるのですが、非課税限度額を利用できるのは相続人が生命保険を受けった場合です。本件では相続人でないCさんのみが生命保険金を受け取っていますので、結局、課税価格の合計の計算上、せっかくの非課税限度額を利用できないことになります。
3 結論
Cさんが相続放棄した場合、相続放棄しなかった場合と比べ、課税価格の合計や相続税の総額は多くなります。Cさんはお父さんの遺志に反する相続放棄をしたことにより、余分な相続税を支払うことになります。お兄さん(Bさん)と仲良くやっていくことを考えたら、相続放棄は避けるべきだと思います。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年10月25日 09:00
こんにちは。弁護士の野村です。
毎日暑い日が続きますね。多くの方がお盆休みあけ、といったところでしょうか。
8月は、裁判所には休廷期間といって"夏休み"のようなものがあります。
もちろん、裁判所が一斉に夏休みをとるわけではなく、休みは順々なので、裁判所全体が機能不全となるわけではありません。
そういうこともあって、弁護士からすると、8月であっても事件は進んでいきます。いつもより、少しゆっくりと。
そんな夏の期間、普段と少し違いを感じる場面、それは裁判傍聴者の人数です。
こころなしか、他の期間よりも裁判傍聴者が増えています。特に学生の方はよく見かけますね。試験後や夏休みの期間を使って裁判傍聴をしているのでしょうか。
そうした中で、先日、裁判傍聴の案内をしました。
横浜弁護士会では、法教育の一環として、裁判傍聴の申込みがあった場合に、弁護士が裁判傍聴の案内をしているのです。今回は、高校生の案内をしてきました。
多くの高校生にとってはもちろん、裁判なんて未知の世界。いきなり傍聴するよりも事前に説明を受けた方がわかりやすいでしょう。というわけで、裁判傍聴前に、裁判の手続について説明してから傍聴に行きます。
裁判には民事、刑事とありますが、裁判傍聴では刑事事件を傍聴します。
これは、刑事裁判のうち、被告人が犯罪を行ったことを認めている事件については、1回の期日で審理を終えることが多いので、裁判傍聴でだいたいの流れを目にすることができるのです。
被告人が犯罪を争っている事件については、期日が何回にもわたるので、そういう事件は何度も足を運ぶことになります。
民事事件は、どのような手続なのか、傍聴するだけではわかりづらいかもしれません。
そういうことで、刑事裁判について説明し、いざ裁判傍聴へ。
法廷では裁判官が手続を主導して行います。各手続について丁寧に説明してくれていたので、学生の方にも傍聴しやすかったようでした。
また、弁護人(被告人を弁護する弁護士のことを言います)の方の振る舞い等、私自身も興味深く傍聴させてもらいました。他の弁護士の裁判を傍聴する機会というのは、実はそれほど多くありません。
裁判が終わった後、学生の感想を聞いたり、質問を受けました。
やはり、見ると聞くとは大違いで、イメージと違ったようでした。
一般的な刑事事件なんて、自分たちの生活の身近にある事件もたくさんあるんですよね。また、そういった事件をテレビで見るのと、実際に法廷の中で聞くのとは、また違ったものだったのではないでしょうか。
裁判についての質問もあり、司法制度についての素朴な質問や、弁護士としての倫理に関する質問もありました。弁護士としてのマインドを少しでも伝えられていたら嬉しいですね。
こういった機会を積極的に利用してもらって、裁判や弁護士の仕事について、より身近になってもらえたら、と思います。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年8月19日 22:00
借地の契約書において,借地上の建物の増改築をするときには,事前に賃貸人の書面による承諾を得なければならないという制限条項を置くことがあり,このような制限条項は有効です。
仮に,このような特約がなかったとしても,賃借人は用法遵守義務・保管義務を負担しておりますので,原則として,賃借人が無断で増改築を行うことは許されません。
それでは,賃貸人は,増改築に関してどのような主張をすることが考えられるでしょうか。
1 損害賠償
賃借人が無断で増改築をし,それにより賃貸人に損害が発生した場合には,債務不履行に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。
もっとも,増改築により賃貸人が具体的に損害を被る場合というのは多くはないかもしれません。
2 解除
次に,賃貸人としては,無断改築を理由に契約解除の主張をすることが考えられます。もっとも,増改築をすれば直ちに契約解除が認められるわけではなく,信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない場合には,解除は認められません。
信頼関係の破壊に関する判断要素としては,無断改築が小規模か大規模か,復旧は容易か否か,借家の利用上必要かつ有益であるか否か,賃貸人の制止を振り切って増改築したのか否か,増改築による賃貸人の不利益の程度等があげられます。
3 地代の増額
賃貸人は賃借人に対し,増改築を承諾する代わりに地代の増額を求めることが考えられます。
4 承諾料
賃貸人の不利益のもと賃借人が利益を受けることになるため,賃借人から賃貸人に対し,増改築の承諾諾料が支払われる場合があります。一般に,全面改築の場合には借地権価格の3%前後が承諾料の目安となります。
5 事件の流れ
(1) 賃借人による無断改築がなされた場合
上記1から4につき,賃貸人は賃借人との間で話し合いをし,話合いでまとまらなければ,解除等を求めて訴訟提起することが考えられます。
(2) 賃借人が事前に賃貸人の承諾を求める場合
まずは両者で協議を行い,上記3,4の金銭の支払いを話合います。それでも話がまとまらない場合には,賃借人は,裁判所に対して,増改築についての賃貸人の承諾に代わる許可の申立てを行うことになります。なお,この許可は「土地の通常の利用上相当とすべき増改築」であることを要するため,申立前に,少なくとも建築確認はとっておく必要があります。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年6月26日 17:55
建物につき賃貸借契約が締結された場合,その契約には借地借家法の適用があります。
建物の用途が,居住用であろうとも,業務用であろうとも,同法の適用があります。
借地借家法が適用されると,賃貸人としては,賃借人に賃料未払等による債務不履行解除ができる場合,解約の申入れをしてその申し入れに正当事由がある場合,期間の定めのある賃貸借契約において,期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をし,その更新拒絶に正当事由がある場合等を除いて,賃貸借契約を終了させることができず,賃借人から建物を明渡してもらうことはできません。
しかし,これでは家主としては,必要なときに建物を利用することができなくなり,建物を貸すことに躊躇を覚え,結果として,良質な賃貸建物の供給が阻害されるおそれがあります。
そこで,借地借家法38条には定期建物賃貸借契約が定められています。
定期建物賃貸借とは,期間の定めがあり,かつ,契約の更新がない旨の特約を置く点に特徴があります。契約の更新がないわけですから,賃貸人としては,建物の契約期間満了後に,賃借人から建物明渡しを受け,その利用が可能となるのです。
この定期建物賃貸借契約を締結するには,賃貸人は賃借人に対し,当該契約は契約の更新がなく,期間満了により終了する旨を記載した書面を交付して説明する必要があります。この説明をしない場合には,賃貸借契約が更新されないとする特約は無効となります。
また,契約期間を1年以上に設定した場合には,その契約期間満了の1年前から6か月前までの間に,賃借人に対し,期間満了による契約の終了を通知しなければ,契約の終了を賃借人に対抗できなくなります。
もっとも,上記通知期間を経過した後に,期間満了による契約終了の通知をした場合には,通知から6か月を経過した日に賃貸借契約は終了します。
以上のように,定期建物賃貸借は賃貸人の建物の有効利用を促進するものではありますが,反面,賃借人の権利を弱めるものです。賃借人としては,建物を借りる際,どのような契約類型に当たるのかを確認することが必要と言えます。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年6月15日 16:59
賃借人が騒音を出している場合,賃貸人は賃貸借契約を解除して,家屋の明渡しを請求できるでしょうか。
賃借人が騒音を出している場合,賃貸人としては,賃借人に賃貸物件を居住に適した状態にする義務がある(民法601条)ことから,騒音を発する賃借人に対し,その行為を止めさせる義務を負っていると考えられます。
他方で,賃借人が一定の生活音を発することはやむを得ません。生活音を発することが許されないとすれば,誰も共同住宅で生活することができなくなってしまいます。
では,どのような生活音が許され,どこからが許されないのかといいますと,抽象的ではありますが,社会生活上受忍すべき限度を超えているかどうかで判断されることになります。簡単に言ってしまえば,常識的にみてその程度の音であれば我慢すべきだと考えられるかどうかによるということです。
上記受忍限度内であるかついては,その音の大きさ,音の種類,音が出る時間帯(昼間か夜間かなど),音が出る頻度,生活する上でやむを得ない音か等の事情を考慮して判断されることになる。
この受忍限度を超えた音を発している場合において,賃貸人が賃借人に音を立てないよう,音量が軽減されるよう催告したにもかかわらず,これに従わないときには,賃貸人と賃借人の間における信頼関係が破壊されたとして,賃貸借契約の解除が認められ,家屋の明渡請求が認められる可能性が高いと言えます。
共同住宅では,音を出している賃借人一人で生活しているわけではなく,他の賃借人もいるのですから,他の賃借人に迷惑がかかる行為をすれば,賃貸人としても苦情を受けたり,場合によっては他の賃借人が部屋から出て行ってしまうといったリスクもあるため,上記のような場合には,賃借人が明渡しを求められても仕方ないと言えましょう。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年6月 3日 20:19
(1) 私は2年ほど前にカンボジアを旅行しました。カンボジアのアンコールワットを是非一度見てみたいと思っていましたので、やっと念願がかなった次第です。アンコールワットは12世紀に建造された寺院で、当初ヒンドゥー教の寺院でしたが、その後16世紀に国王が仏教に改宗したため、仏教寺院になりました。アンコールワットの存在は当時日本でも知られていたようです。寺院の回廊を登っていくと、十字回廊という廊下の壁に墨で日本語が書かれているのに驚きました。日本語といっても漢文で、本文は掠れて判読できませんでしたが、「寛永九年」という文字ははっきり読めました。カンボジア人の通訳さんによると、これは日本人の落書きだと説明してくれました。しかし日本人のマナーの悪さを指摘するのではなく、400年前にも日本人がアンコールワットを訪問していたこと、またこの落書き自体が観光資源になっていることを強調したかったようです。寛永9年といえば江戸幕府が第一次鎖国令(1610年)を出す前年です。翌年から東南アジアに渡った日本人は帰国できなくなりました。そこで私は、カンボジアから帰った後、この落書きをした日本人が誰で、その人物はカンボジアから帰国できたのか調べてみました。その結果、この落書きをした人は、肥前・松浦藩の森本一房という武士で、朱印船で東南アジアに渡り、加藤清正に仕えていた父・一久の霊を弔い、年老いた母の後生を祈念するため、当時インドの祇園精舎と思われていたアンコールワットに4体の仏像を奉納したことがわかりました。そして彼はぎりぎりのところで帰国でき、その後京都の山崎に住み、1674年にそこで亡くなったとのことです。
(2) 日本は寛永年間に鎖国し、その後200年余りにわたり海外とほとんど交流しなくなりました。その結果平和が続きましたが、失われたものも非常に多かったと思います。つまり異文化交流が行われなくなったため、日本人と外国人の相互理解が進まず、相互不信、偏見によりトラブルの解決が難しくなったと思います。
例えば、以前から日本の捕鯨活動は国際的に批判されてきました。日本は仏教の影響で昔から獣は食べず、魚やクジラが日本人の重要なタンパク源でした。このような食文化のない国々はなかなか日本を理解できないのかもしれません。2年ほど前、反捕鯨団体であるシーシェパードが日本の捕鯨船に危害を与えたとのことで、シーシェパードの船長(ニュージーランド人)が逮捕されました。彼は逮捕された後日本の裁判にかけられ執行猶予判決で釈放されましたが、身柄を拘束された後における日本の捜査当局の態度が非常に紳士的であったことに驚いていたそうです。彼はクジラを食べる日本人は野蛮人と思っていたようです。これも異文化交流が十分に行われていないためだと思います。
また昨年は中国で反日運動が高まり、中国人が日本製の自動車や日本の店舗を破壊しました。これは中国における反日教育に大きな原因があると思いますが、同じ中国人でも日本に来ている人々は、そのような破壊行為を恥ずかしく思っているようです。この点からも日中間で異文化交流を深めることは非常に重要だと思います。
(3) 今後日本では労働人口が急激に減少します。そのため高齢者を支えるサポート人口を増やさなければ、若い人々の負担が大きくなるばかりです。また少子化で2020年に日本は世界一の人手不足の国になるそうです(平成25年2月19日付け日経新聞)。そのため日本の移民政策の見直しは必須だと思います。日本の出入国管理法は一般外国人の単純労働者を受け入れていません。これは一般外国人の移民を無制限に認めると社会秩序を維持できないという理由からだと思います。しかしこの政策は寛永の鎖国政策と目的においてほとんど変わりありません。日本における外国人の犯罪率が日本人と比べて高いわけではありません。現在日本は、積極的に異文化交流を図らなければならない時期に来ていると思います。
先日私は湘南高校定時制の生徒に講演する機会がありましたが、その時一番熱心に話を聞き、終わった後に質問に来た生徒がありました。その生徒はカンボジア人でした。湘南高校定時制はベトナム人やカンボジア人が比較的多いのですが、彼らは一生懸命勉強しています。30年ほど前、カンボジアでは人口の3分の1が虐殺されました(いわゆるポルポトの大虐殺)。そのため彼らは教育を受けられる幸せを父母から伝えられているのだと思います。日本人の生徒にとって非常によい刺激にもなるでしょうし、異文化交流のよい例でもあります。
最初にお話ししました森本一房は、400年前に危険を冒して東南アジアに渡りました。日本人はもともと異文化交流を避けていなかったのです。最近湘南高校全日制では、短期間のアメリカ留学を募集したところ、定員を大幅に超える応募があったと聞きました。日本人の外国留学の減少と内向き志向が嘆かれている昨今ですが、湘南高校の生徒・保護者の意気込みに勇気づけられました。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年2月23日 16:05
昨日からすっきりしない天気が続きますね。
前回のブログでは,雪ネタにふれましたが,今日の川崎は少し雪が降っています。
電車が止まるレベルまで降り過ぎないことを祈るばかりです。
こういう雨や寒い日は外に出たくないものですが,あえて外に出るとよいことがあるかもしません。
今日みたいな日は,誰しも外に出たくないわけで,そういう日は銀行などが空いていて,外回りの時間が短縮できる可能性が高いです。
そして,聞くところによれば,雨の日はスーパーの商品の値段が下がる傾向があるそうです。
(人が来ない≒需要が下がる⇒値段が下がるという図式ですね。)
今日のような過ごしにくい日ほどあえて積極的に行動することで,一日を有意義に使いたいものです。
投稿者 小山法律事務所 | 2013年2月19日 09:09