M&Aと表明保証
M&Aと表明保証
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意義
表明保証(「レプ・ワラ」ともいいます。)とは、契約の一方当事者が他方当
事者に対し、一定時点において一定事項が真実かつ正確であることを表明し、これを保証することです。株式譲渡や事業譲渡などM&Aの最終契約では必須の概念です。
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機能
M&Aで対象会社や事業(以下「対象会社等」といいます。)を譲り受ける買
主は、投資対象である対象会社等の株式価値や事業価値を見定めるため、財務デュー・デリジェンス(以下「DD」といいます。)や法務DDを行います。しかしその費用や時間に制約があるため、対象会社等の財務状況、人事労務関係、取引先関係、各種重要資産等にかかる問題点をすべて抽出することは不可能です。そこで、買主は売主に対し、判明した問題点を除き、対象会社等が買主側に提供した情報等が真実かつ正確であることの表明保証を求めます。そして表明保証違反があった場合、売主はそれによって生じた損害等を補償する責任がある旨規定されます(補償条項)。
すなわち、各種DDを行っても買主側には解明しきれない不安(リスク)が残ります。もし表明保証条項がなければリスクは全て買主が負担することになりますが、売主が表明保証を行い、表明保証違反の場合は損害等を補償することにすれば、売主もリスクを分担することになります。これを表明保証のリスク分担機能と言います。
また買主は売主による表明保証の対象をできるだけ広く求め、リスクの顕在化に備えます。一方売主は、表明保証違反とならないよう対象会社等の問題点を自ら明らかにし、表明保証の例外(除外)事項にしようとします。
すなわち表明保証には、対象会社等の問題点を燻り出す機能もあります。
3 表明保証とその他重要概念との関係
M&Aの最終契約書における重要概念には、前述の「補償条項」の他に、「誓約条項(コベナッツ)」、そしてクロージングの「前提条件(コンデション)」があります。これらの関係は以下のとおりです。
DDの結果判明した対象会社等の問題点については、表明保証の除外事項としますが、これを経済的条件(譲渡価格等)に反映させて済ます場合と、売主にその改善・是正を義務付ける場合があります。後者で使用される条項が誓約条項です。誓約条項はこのほか株式譲渡につき取締役会の承認をえること等、当事者を義務付ける場合に使用されます。
そして表明保証条項や誓約条項の違反がないことがクロージングの前提条件になります。特に重要な前提条件が充足されない場合、買主は契約から離脱することになりますが、前提条件は停止条件ではありませんので、買主は任意の裁量により当該前提条件を放棄し、クロージングに進むことができます。買主が当該前提条件を放棄しても当該前提条件が充足されたわけではありませんので、買主は売主の表明保証条項違反や誓約条項違反を理由に売主の補償責任を追及できます。
なお表明保証は、対象会社等に関する事項が中心ですが、当事者自身に関する事項もありますので、買主も自身の権限等につき表明保証をします。
投稿者 小山法律事務所 | 2021年5月 9日 12:52