異文化交流の重要性 (弁護士 小山治郎)

(1) 私は2年ほど前にカンボジアを旅行しました。カンボジアのアンコールワットを是非一度見てみたいと思っていましたので、やっと念願がかなった次第です。アンコールワットは12世紀に建造された寺院で、当初ヒンドゥー教の寺院でしたが、その後16世紀に国王が仏教に改宗したため、仏教寺院になりました。アンコールワットの存在は当時日本でも知られていたようです。寺院の回廊を登っていくと、十字回廊という廊下の壁に墨で日本語が書かれているのに驚きました。日本語といっても漢文で、本文は掠れて判読できませんでしたが、「寛永九年」という文字ははっきり読めました。カンボジア人の通訳さんによると、これは日本人の落書きだと説明してくれました。しかし日本人のマナーの悪さを指摘するのではなく、400年前にも日本人がアンコールワットを訪問していたこと、またこの落書き自体が観光資源になっていることを強調したかったようです。寛永9年といえば江戸幕府が第一次鎖国令(1610年)を出す前年です。翌年から東南アジアに渡った日本人は帰国できなくなりました。そこで私は、カンボジアから帰った後、この落書きをした日本人が誰で、その人物はカンボジアから帰国できたのか調べてみました。その結果、この落書きをした人は、肥前・松浦藩の森本一房という武士で、朱印船で東南アジアに渡り、加藤清正に仕えていた父・一久の霊を弔い、年老いた母の後生を祈念するため、当時インドの祇園精舎と思われていたアンコールワットに4体の仏像を奉納したことがわかりました。そして彼はぎりぎりのところで帰国でき、その後京都の山崎に住み、1674年にそこで亡くなったとのことです。

 

(2) 日本は寛永年間に鎖国し、その後200年余りにわたり海外とほとんど交流しなくなりました。その結果平和が続きましたが、失われたものも非常に多かったと思います。つまり異文化交流が行われなくなったため、日本人と外国人の相互理解が進まず、相互不信、偏見によりトラブルの解決が難しくなったと思います。

 例えば、以前から日本の捕鯨活動は国際的に批判されてきました。日本は仏教の影響で昔から獣は食べず、魚やクジラが日本人の重要なタンパク源でした。このような食文化のない国々はなかなか日本を理解できないのかもしれません。2年ほど前、反捕鯨団体であるシーシェパードが日本の捕鯨船に危害を与えたとのことで、シーシェパードの船長(ニュージーランド人)が逮捕されました。彼は逮捕された後日本の裁判にかけられ執行猶予判決で釈放されましたが、身柄を拘束された後における日本の捜査当局の態度が非常に紳士的であったことに驚いていたそうです。彼はクジラを食べる日本人は野蛮人と思っていたようです。これも異文化交流が十分に行われていないためだと思います。

 また昨年は中国で反日運動が高まり、中国人が日本製の自動車や日本の店舗を破壊しました。これは中国における反日教育に大きな原因があると思いますが、同じ中国人でも日本に来ている人々は、そのような破壊行為を恥ずかしく思っているようです。この点からも日中間で異文化交流を深めることは非常に重要だと思います。

 

(3) 今後日本では労働人口が急激に減少します。そのため高齢者を支えるサポート人口を増やさなければ、若い人々の負担が大きくなるばかりです。また少子化で2020年に日本は世界一の人手不足の国になるそうです(平成25年2月19日付け日経新聞)。そのため日本の移民政策の見直しは必須だと思います。日本の出入国管理法は一般外国人の単純労働者を受け入れていません。これは一般外国人の移民を無制限に認めると社会秩序を維持できないという理由からだと思います。しかしこの政策は寛永の鎖国政策と目的においてほとんど変わりありません。日本における外国人の犯罪率が日本人と比べて高いわけではありません。現在日本は、積極的に異文化交流を図らなければならない時期に来ていると思います。

 先日私は湘南高校定時制の生徒に講演する機会がありましたが、その時一番熱心に話を聞き、終わった後に質問に来た生徒がありました。その生徒はカンボジア人でした。湘南高校定時制はベトナム人やカンボジア人が比較的多いのですが、彼らは一生懸命勉強しています。30年ほど前、カンボジアでは人口の3分の1が虐殺されました(いわゆるポルポトの大虐殺)。そのため彼らは教育を受けられる幸せを父母から伝えられているのだと思います。日本人の生徒にとって非常によい刺激にもなるでしょうし、異文化交流のよい例でもあります。

 最初にお話ししました森本一房は、400年前に危険を冒して東南アジアに渡りました。日本人はもともと異文化交流を避けていなかったのです。最近湘南高校全日制では、短期間のアメリカ留学を募集したところ、定員を大幅に超える応募があったと聞きました。日本人の外国留学の減少と内向き志向が嘆かれている昨今ですが、湘南高校の生徒・保護者の意気込みに勇気づけられました。



投稿者 小山法律事務所 | 2013年2月23日 16:05

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