よくわかる相続の法と税務(2) (弁護士 小山治郎)

よくわかる相続法と税務(2)

                   弁護士 小山治郎

今回は比較的簡単な相続事例をもとに各相続人の相続税まで計算をしてみましょう。

 設例2

  A(被相続人)は、配偶者B、長男C、次男D、そして長女Eを残して死亡しました。遺産は、預金7000万円だけです。

 Aは、3000万円の生命保険契約があり、自分で保険料を支払い、受取人をBと指定していました。

 長男Cは、Aから5年前に1000万円の贈与を受けています。

 長女Eは相続放棄しました。

 Aの遺言はありません。

1 遺産分割

 遺産分割では、各相続人の合意によりどのようにでも分割できますが本件

では法定相続分に基づき分割することにしました。

 しかし遺産は預金7000万円だけですが、Cには1000万円の特別受益(民法903条)がありますので、計算上これを7000万円に加算することになります。贈与を持ち戻すとき、相続開始時点の価額で評価しますが、貨幣価値は5年前と変わりないものとして、加算すべき金額は1000万円とします。一方、生命保険金については、前回も述べましたように受取人固有の権利として特別受益には当たりません。

 各相続人の相続分は以下のとおりとなります。

 B (7000万円+1000万円)×1/2=4000万円

 C 8000万円×1/2×1/2- 1000万円=1000万円

 D 8000万円×1/2×1/2=2000万円

 E 相続放棄しているので相続分なし

 

2 相続税の課税価格の計算

 まず各相続人の課税価格を計算し、それを合計します。

   B

本来の相続財産          4000万円

みなし相続財産  生命保険金   3000万円

非課税額            2000万円

                 5000万円

生命保険金の非課税額は以下のように計算します。

非課税限度額=500万円×42000万円(法定相続人の人数には相続放棄した人も含みます)

本件で生命保険金を取得した者はBだけですから、非課税限度額2000万円全てをBが使えます。

   C

 本来の相続財産          1000万円

                  1000万円

 Cは、5年前に1000万円の贈与を受けていますが、課税価格の計算上無視されます。相続税法上課税価格に加算されるものは3年以内の贈与のみです。

   D

 本来の相続財産         2000万円

                 2000万円

以上から課税価格の合計は、5000万円+1000万円+2000万円

  =8000万円となります。

3 相続税額の総額の計算

 まず、課税価格の合計額から基礎控除額を控除します。控除額は、課税の公平の観点から、相続放棄した人も含めて、5000万円+1000万円×49000万円と計算されます。

 したがって基礎控除後の金額は、8000万円-9000万円

1000万円となります。

基礎控除後の金額がマイナスになる場合、どのように遺産分割をしようと相続税は一切かかりません。

しかし、平成27年1月1日以降の相続については、基礎控除の計算式は次のようになります。

 基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数

 よって新法に基づき、本件の基礎控除額を計算すると

 基礎控除額=3000万円+600万円×45400万円

となり、基礎控除後の課税価格は

 8000万円-5400万円=2600万円

となり、相続税がかかることになります。

 あと1年余りで新法が適用されますので、以下、新法を基に相続税の総額を計算してみましょう。

(1)法定相続人が法定相続分に応じて相続したと仮定してそれぞれの相続税

額を計算します。法定相続人には相続放棄した人も含みます。これは相続放棄した人を入れないと、相続税は累進課税ですので相続税総額が大きくなり、相続放棄した人がいない場合との間で不公平が生じるからです。

 Bの課税価格 2600万円×1/2=1300万円

Cの課税価格 2600万円×1/2×1/3=4,333,000

                     (千円未満切り捨て)

DEの課税価格 4,333,000

 次に各人の課税価格に相続税率を乗じて相続税を計算します。相続税の税率表を基に計算します。

 Bの税額 1300万円×0.1550万円=145万円

 CDEの税額 4,333,000×0.1433,000

 よって相続税の総額は

  145万円+433,000円×32,749,900

 となります。

4 各相続人の算出税額の計算

 各相続人の算出税額は、相続税の総額に按分割合を乗じて計算します。

 按分割合は、2で計算した各相続人の課税価格を課税価格の合計で除して算定します。割り切れない場合は、小数点2位未満を相続人間で調整できます。

 Bの按分割合

  5000万円÷8000万円=0.625

 Cの按分割合

  1000万円÷8000万円=0.125

 Dの按分割合

  2000万円÷8000万円=0.25

 次に各相続人の算出税額を計算します。相続税の総額は3で計算した

        2,749,900

 です。

 Bの算出税額

  2,749,900円×0.6251,718,600

                 (100円未満切り捨て)

 Cの算出税額

  2,749,900円×0.125343,700

 Dの算出税額

  2,749,900円×0.25687,400

5 各相続人の納付すべき相続税額

 納付すべき相続税額は、算出税額に基づき、配偶者税額軽減、贈与税控除、未成年者税額控除などを適用して算出されます。

   Bの納付すべき税額

BAの配偶者ですので、次の算式による税額が軽減されます。

相続税の総額×法定相続分又は1億66000万円の多い方÷課税価格の合計額

本件では、

 2749900円×16000万円÷8000万円=5499800

したがって本件では税額軽減額がBの算出税額を上回りますので、Bには相続税がかかりません。

    CDさんの納付すべき税額

 CDが未成年者であれば、一定額の税額控除があります。

 Cは、Aから1000万円贈与を受けていますが、5年前ですので、贈与税額控除はありません。3年以内でしたら、贈与額を課税価格に加算して算出税額を計算した上、納めた贈与税相当額が控除されます。この規定は近い将来の相続を予期して相続税回避目的で贈与するのを防ぐ趣旨です。



投稿者 小山法律事務所 | 2013年11月 1日 09:00

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