M&AとEBITDA
M&AとEBITDA
弁護士 小山 治郎
1 EBITDA(イービットディーエイ、又はイービッダー)という概念はM&Aには欠かせません。
M&Aは企業そのものやそれを構成する事業の売買です。売買契約で最も重要な要素は価格です。それでは企業の株式の価格、株式価値はどのように決められるのでしょうか。上場企業の場合は、株式の時価総額が企業の株式価値と言えますが、非上場企業の場合が問題です。
企業は毎決算期に貸借対照表や損益計算書を作成します。貸借対照表では純資産額が算定表示されますが、これは株主に帰属する持分であり、企業は法律上株主のものですから、この純資産額が売買価格すなわち株式価値を形成するといえなくもありません。しかし同時に損益計算書の営業利益を見たら大幅な赤字であった場合、この企業の株式を純資産額で購入するのはリスクが大きすぎます。
企業を買収する場合、買主は多額の代価(コスト)を払うのですから、そのコストを何年で回収できるかに関心を持ちます。そこで対象企業が年間どのくらいのキャッシュを生み出すかを見定めることが不可欠です。当該企業が本業の儲けで生み出すキャッシュフローをEBITDAといいます。
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EBITDAは本業による年間のネットのキャッシュフローですから、ざっくり
言って、営業利益に非支出費用である減価償却費を加えたものと考えてよいと思います。減価償却費は、販売費及び一般管理費のものだけでなく、製造業などでは製造間接費に含まれる減価償却費も含まれます。
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一般に企業価値と株式価値の関係は次の算式で表されます。
企業価値=株式価値+有利子負債-現預金 ①式
上式の意味は、貸借対照表の借方(左側)と貸方(右側)に対応しています。
貸借対照表の借方は資産すなわち、調達した資金の運用先を示します。一方、貸方は負債(他人資本)と資本(自己資本)すなわち、資金の調達先を示しています。また上記算式の「現預金」は営業活動に運用されていない余剰現預金を示しますので、マイナスとなります。したがって「現預金」には、各店舗の小口現金などは含まれません。小口現金は営業活動に必要な運転資本だからです。
上記算式を変形すると
株式価値=企業価値-有利子負債+現預金 ②式
となります。
したがって、M&A対象企業の企業価値がわかれば、対象企業の株式価値が判明することになります。
そこで、次に類似業種の上場企業との比較でM&A対象企業の企業価値を求めます。
4 企業価値とEBITDAとの関係は、次の算式で表せます。
企業価値=EBITDA×倍率 ③式
上式は、企業価値が何年分の営業キャッシュフローで回収できるかを示しています。上記算式の倍率をマルチプルと言います。マルチプルは類似企業であれば大きな開きはありません。
上記算式を変形すると
倍率(マルチプル)=企業価値÷EBITDA
となります。上場企業の場合、公開されている資料(会社四季報等)から、上記①式により企業価値は計算できますし、当然EBITDAも判明します。したがって、対象企業と類似する上場企業のマルチプルを算定できます。
そこで、対象企業のEBITDAにマルチプルを掛けて当該企業の企業価値を算定し(③式)、それを②式にあてはめて対象企業の株式価値を計算します。
5 上記企業価値又は株式価値算定法はマルチプル法といい、マーケットアプローチの1つです。DCF法よりも、見積もり要素があまり入らないので安定しています。M&Aで使用される倍率(マルチプル)は、8倍から10倍と言われています。
投稿者 小山法律事務所 | 2021年5月 2日 15:50