日中健康保険制度の違い(弁護士 小山治郎)
先日中国人の女性(Aさん)が知合い(Bさん)に健康保険証を貸したことで逮捕され、私と同僚の弁護士で弁護しました。他人の健康保険証で治療を受けることは、医師を欺いて、本来治療費を全額支払うべきところ、3割の支払で済ませたことになります。したがって医師を騙し7割の治療費を支払わずに医療サービスを受けたことになりますから詐欺罪(刑法246条2項)に当たります。そこでAさんは詐欺罪の共犯で逮捕されました。
しかしAさんは来日して日が浅いため日本の健康保険制度をよく知りませんでした。Aさんは、健康保険証がなければ治療を受けられないと考えていて、治療費が3割になるというシステムを知らなかったのです。そこでBさんが実家に健康保険証を忘れたというので貸してしまったのです。
中国の健康保険制度は、労働者の場合、毎月給料から2%ほどを積立て、これは労働者の個人口座に累積されます。しかし労働者はこれを自由に引き出すことはできず、病気や怪我で医者にかかったときは一旦全額を支払い、その後個人口座に請求して治療費を後日返還してもらう制度になっているようです。そして個人口座の残高がなくなれば、治療費の返還は当然受けられなくなります。
結局AさんはBさんが一旦治療費を全額支払うと思っていたわけですから、詐欺罪の故意はないことになります。私たち弁護人はそのことを強く主張したため、Aさんは起訴されず釈放されました。
ところで、日本の健康保険制度の下では、健康保険に加入していれば誰でも3割を支払うだけでいつでも治療を平等に受けられます。一方中国は結局自分で積み立てたお金で支払うわけで、高額の治療を受けられるのは金持ちに限られることになります。つまり日本の健康保険制度の方が中国よりも社会主義的であることは明らかです。しかし、そのために国民の医療費は毎年巨額に上り、国や自治体の財政をひっ迫させています。最近地方自治体の3人に1人が非正規職員だというニュースがありました。そして非正規職員の年収は200万円以下になっているとのことです。
このように日本は医療につき社会主義的政策をとっているため、年収が200万円以下の人たちが増加し逆に貧富の差が広がっているのは、実に皮肉な結果です。国民皆保険制度はアメリカでも共和党の反対が強く、オバマさんの人気が4年前よりも落ちている原因になっています。日本も国民皆保険制度のあり方を再検討する時期に来ているのではないでしょうか。もちろん私は国民皆保険制度それ自体を廃止することを主張しているのではなく、その内容・あり方に問題があると思っているのです。
投稿者 小山法律事務所 | 2012年11月20日 09:00