金融ADR申立について(弁護士 小山治郎)

 最近、海外から製品や原材料を輸入している優良中小企業が銀行と通貨デリバティブ取引を行い、ここ数年の超円高で多額の損害を出し、全国銀行協会に金融ADR申立を行うケースが増えています。

 銀行が販売している通貨デリバティブ取引は、ドル円レートが一定の基準(基準価格)になるまでは、輸入企業にとって有利なドル円レートで毎月一定の米ドル(たとえば10万ドル)を購入できますが、基準価格を上回る円高になったときは大変です。基準価格よりも10円も円安のレートで、しかも毎月20万米ドルを購入しなければならなくなります。すなわち円安の時は利益が出ますが、基準価格を上回った円高になると損失は加速度的に増えていくのです。この数年間の円高で毎年1億円以上の為替損失を計上している輸入企業は多数に上っています(被害会社数は全国で1万9000社といわれています)。

 通貨デリバティブ取引は、ドル・コール・オプションとドル・プット・オプションを組み合わせたものが多く、輸入企業はドル・プット・オプションを銀行に売ることになっています。ドル・プット・オプションを売れば、銀行は将来一定の有利なレートで一定の量の米ドルを売る権利を取得し、輸入企業にはこれを買う義務が生じるのです。ですから基準価格を上回る円高になりますと、輸入企業は不利なレートで多額のドルを買うことになり、無限定のリスクにさらされるのです。

 オプション取引は、私が公認会計士をしていた20数年前に企業に利用されるようになりました。しかし企業はオプションを買うのであり、売るものではありませんでした。オプションは選択の権利ですから、オプションを買ったのであれば、将来円ドルレートが企業に不利になったらオプションを放棄すればよいのです。権利は放棄することができるからです。この場合企業が損するのはオプション料だけです。ですから通貨オプションを購入することは輸入企業にとって為替変動に対するリスクヘッジになるのです。しかし通貨オプションを銀行に売った輸入企業は権利でなく義務を負うわけですから、リスクヘッジになるわけはありません。

 このようなリスク商品を購入した輸入企業も、当初は円安で利益を得ていたのですから、円高になって巨額の損失が生じても仕方ないはずだという意見もありますが、問題はそう単純ではありません。銀行は輸入企業に多額の融資をしている場合がほとんどであり、銀行の勧誘を拒絶するのは困難です。また銀行は、証券会社と違い、リスク商品の販売に慣れていないので、リスクの説明が不十分で、また円ドルレートが100円を割る円高になるはずはないと断定的に述べて勧誘している場合がほとんどです。このような販売方法は、金融商品取引法や金融商品販売法に違反しますし、独占禁止法違反のケースもあります。

 本来銀行は、有望な企業に融資して企業を育てるということを社会的使命としているはずです。それなのに優良な輸入企業に不当な方法で通貨デリバティブ取引契約をさせ、倒産の危機に陥れているのが現実です。

 銀行も各方面からの批判を受け、輸入企業が金融ADRの申立てをした場合、違約金の支払いの全額又は一部免除に応じるようになりました。

 通貨デリバティブ取引の被害にあわれている輸入企業の方は、早急に当法律事務所にご相談ください。特別に無料の法律相談に応じます。

 



投稿者 小山法律事務所 | 2012年11月13日 13:34

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