サブリース契約と借地借家法の適用(弁護士 五明 豊)
今回は,賃貸借契約の中でも,サブリース契約を扱ってみたいと思います。
1 サブリース契約とは,不動産業者が第三者に転貸することを目的として,建物所有者から建物全体を一括して賃借する賃貸借契約のことを言います。
好景気であったころには,賃料収益が見込めたために,このような契約が結ばれました。すなわち,不動産会社にとっては,事業用ビルの所有権を取得することなく事業を展開できるというメリットがあり,建物所有者にとっては,空き室等のリスクを不動産会社に転嫁し,安定した賃料収入を得ることができ,遊休資産等の有効活用になるというメリットがありました。
しかし,バブルがはじけ,空室の増加等により,転貸料総額が賃貸料総額を下回る事態(逆ざや)が生じ,不動産業者に厳しい状況になりました。
そのため,不動産業者は建物所有者に対して,借地借家法32条1項により賃料の減額を請求する事件が増えました。
2 そこで,裁判上,問題となったのが,サブリース契約に借地借家法の適用があるかです。
サブリース契約は,当初より,借主が第三者に転貸して転貸料等から賃貸料等を差し引いた差額を得ることを目的としたものであり,事業性のあるものであって,その契約の実質は賃貸借契約ではなく,事業契約ではないかという疑問が生まれます。
そして,サブリース契約には,建物所有者にその建築資金の借入返済を容易にするため,定期的に賃料の増額を保証する賃料自動増額特約条項等の特約が入っていることが多く,借地借家法の適用がないとした場合,不動産業者は逆ざやが生じているにもかかわらず,同特約により賃料が上がり続けてしまうおそれがあるのです。
3 最高裁平成15年10月21日判決は,サブリース契約もまた賃貸借契約であるとし,借地借家法の適用を肯定した上で,同法32条1項の規定は強行法規であって,賃料自動増額特約によってもその適用を排除することはできないと判示しました。
そして,賃料の減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約が付されるに至った事情,とりわけ,当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無,程度等),賃借人の転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等),賃貸人の敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等をも十分に考慮すべきであると判示しました。
4 以上のとおり,サブリース契約であっても,借地借家法の適用はあり,同法32条1項により,同項所定の減額すべき事情等がある場合には,賃料減額が認められることになりました。
なお,同日にもう一つの最高裁判決が下されました。その裁判の中では,建物賃貸借契約に基づく使用収益の開始前に借地借家法32条1項に基づき賃料減額請求ができるかが問題となりました。
最高裁は,同項は賃貸借契約に基づく使用収益が開始された後において,賃料額が不相当となったときに,将来に向かって賃料の増減額を求めるものと解されるから,賃貸借契約の当事者は,契約に基づく使用収益の開始前に,同項に基づいて当初賃料の額の増減を求めることはできないものと解すべきであると判示しました。
投稿者 小山法律事務所 | 2012年9月16日 22:08