事業再生と財務分析(1) 【弁護士 小山治郎】
窮境状態にある企業が事業再生に取り組む場合、法的再生でも私的再生でも、合理的かつ実行可能な事業計画を設定しなければなりません。そこで今回は、事業計画書作成において欠かせない損益分岐点分析について説明します。
損益分岐点とは、利益も損失も出ない売上高を言います。利益は、売上高から費用を控除した残額ですが、費用は固定費と変動費に分解できます。固定費は売上高が変動しても変動しない費用で、正社員の基本給などです。変動費は、製造業における材料費のように、製品の製造・販売に比例して増減する費用です。
以上から、次の恒等式が成り立ちます。
利益=売上高-固定費-変動費
利益+固定費+変動費=売上高
売上高=利益+固定費+変動費
損益分岐点は利益がゼロの売上高ですから、損益分岐点売上高をPとすると
P=固定費+変動費
となります。
ここで変動費率、すなわち売上高に対する変動費の割合をtとすると、上の式は、
P=固定費+P×変動費率
となります。
これを変形すると
P-P×変動費率=固定費
P=固定費/(1-変動費率)
となります。
ここで、(1-変動費率)を限界利益率といいます。
限界利益率とは、売上を1単位増やすとどれだけ「利益の増加又は固定の回収」に貢献するかを示す割合です。
結局、損益分岐点売上高は、固定費を限界利益率で割ればよいのです。
例を使って説明します。
例1
固定費:350万円
変動費率:30%
実際の売上高:700万円
限界利益率:1-0.3=0.7
損益分岐点:350万円÷0.7=500万円
利益:700万円-350万円-700万円×0.3=140万円
例1は、140万円の利益が出ているケースですが、次は損失が生じているケースを示します。
例2
例1の実際の売上高を450万円とします。
利益(損失)=450万円-350万円-450万円×0.3=△35万円
事業再生を必要としている企業は当然、例2のように、損失が出ている場合が多いです。
そこで、以上から、事業再生計画のポイントを把握します。
ポイント1は、当然ですが、売上高を増やすことです。売上高を損益分岐点売上高より多くすることです。当然会社の経営者は売上高を増加させるために死に物狂いで日夜頑張っているのですから、これは分かり切ったことです。しかし適切な経営戦略に欠けるため売り上げが伸びないケースもあります。売上を伸ばすためには、事業分析(事業DD)が効果的ですが、中でもSWOT分析で、自社の強みと市場のニーズを分析し、両者が一致するところに経営資源をより多く投入することです。
ポイント2は、固定費を削減することです。先ほど説明しましたように、損益分岐点売上高=固定費/限界利益率(1-変動費率)、ですから、分子の固定費を削減すれば損益分岐点売上高は低下します。すなわち同じ売上高でも利益は増加します。
固定費を削減する方法の代表はリストラですが、従業員の解雇は最後の手段です。そのほかの費目でも、製造原価や販管費の各費目を分析すると、削減できる固定費部分はかなりあります。
ポイント3は、変動費率を下げることです。固定費/限界利益率における分子の固定費が不変でも、分母の限界利益率を高める、言い換えれば分母の変動費率を削減すれば、損益分岐点は下がります。
変動費削減の例としては、無駄な残業を省く等、労務管理をしっかり行う、無駄な材料費が出ないよう、製造工程の管理を怠らないこと等です。
事業再生に必要な損益分岐点分析はここまでにしておきます。
投稿者 小山法律事務所 | 2017年6月28日 21:22