震災瓦礫の受け入れ拒否に思うこと(弁護士 小山治郎)
神奈川県知事が東北の震災瓦礫の受け入れを表明したことに対し、処理施設のある地元住民を中心に反対運動が起きている。反対の理由は、もちろん放射能を含んだ廃棄物の焼却灰が高濃度の放射能(主にセシウム)を含んでいるので、その健康への被害を恐れるからである。
しかし、放射性物質を含んだ焼却灰は神奈川県でも既に生じている。昨年藤沢のごみ処理施設において、焼却灰から比較的高濃度(1キログラム当たり2900ベクレル)のセシウムが検出されたと発表された。このように東北だけでなく、関東地方全体で広く比較的高濃度のセシウムを含んだ焼却灰が報告されているのである。これは福島原発の事故により、東北関東に放射能を含んだ物質が降り注ぎ、それが雨水で流され、下水処理場で濃縮されたからである。この事実から見ても、放射能を含んだ廃棄物の処理は東北だけでなく、神奈川県を含む日本全体の問題と言ってもよいのである。
一方、福島原発から津波の被害が大きかった岩手県宮古市までの距離は260キロであり、横浜までの距離は250キロほどに過ぎない。すなわち、宮古市は横浜よりも福島原発から離れているのである。当然宮古の瓦礫に含まれる放射性物質は横浜の産業廃棄物とあまり変わらないと予想される。実際、東京都が宮古市の震災瓦礫を受け入れるに当たり、宮古市の瓦礫仮置き場の放射線量を調査した際、瓦礫搬入前の仮置き場の放射線量は毎時0.077マイクロシーベルトであったが、瓦礫搬入後のそれは0.073シーベルトであった。このことから宮古市の震災瓦礫が特に放射性物質を多く含んでいるわけではないことは明らかである。
そして黒岩神奈川県知事が受け入れを表明している東北の瓦礫は、セシウムで1キログラム当たり100ベクレル以下のものである。これはほとんど無視できる放射性物質含有量であることは、日本のセシウム基準が以下のとおり世界でも厳しい基準になっていることからもわかる。本年4月1日から適用される日本の「食品中の放射性セシウム基準」は、一般食品で1キログラム当たり100ベクレル、牛乳などは50ベクレルである。一方米国は、一般食品で1250ベクレル、乳製品で1000ベクレルである。食品からの内部被爆を防止するための基準でもこの程度なのである(平成24年4月1日付け日経新聞)。日本は世界一厳しい基準を設定していると言える。
このように見てくると、東北復興を進めるために、震災瓦礫の広域処理が必要であれば、神奈川県も積極的に協力すべきだと思う。問題は、瓦礫等を焼却して出てくる焼却灰をどのように処理するか、すなわち十分に管理された最終処分場の施設の確保こそ重要だと思う。放射線の被害で問題なのは内部被爆であり、土壌が放射能で汚染されたり、地下水に放射性物質が漏れたりすることは絶対に避けなければならない。これも東北だけの問題ではなく、関東そして日本全体の問題だと思う。
また教育の重要性が指摘されなければならない。原発事故のあった福島のある小学校では、放射線教育に力を入れた結果、小学生が放射線について詳しくなり、親よりも良く知っているという。放射線物質を含む食べ物などについても、スーパーで母親にアドバイスしているそうである。
放射線についての無知が、徒に不安を煽ることになる。私は川崎に住んでいるが、隣の高級マンションにはIT企業に勤務するインド人が大勢住んでいる。昨年の原発事故から間もなく、そのインド人たちは、続々と羽田に向かった。彼ら(彼女ら)のとった行動は賢明だったか疑問である。なぜなら、彼らの帰ったインドの放射線量は東京よりも高いのである。インド(ニューデリー)の放射線量は1時間当たり0.07マイクロシーベルトであり、東京のそれは0.06マイクロシーベルトである。1974年から砂漠で核実験をやっているインドが日本より放射線量レベルが高いのは当然である。
それにしても、原爆の父と言われたオッペンハイマー博士は、アメリカのロスアラモスでマンハッタン計画を指揮し、1945年7月、原爆実験に成功したが、その時彼がつぶやいた「私は死神、世界の破壊者」という言葉が、実感をもって伝わる今日この頃である。
投稿者 小山法律事務所 | 2012年4月 6日 09:00