漫画家・横山光輝先生を偲ぶ(弁護士 新井裕子)

去る4月15日は漫画家・横山光輝先生の命日でした。

私は学生時代は漫研だったのですが、当時大好きで集めていたのが横山先生の漫画でした。

横山光輝って誰だよ?という方もいらっしゃると思いますが、「鉄人28号」「魔法使いサリー」「三国志」を描いた人だと言えばわかるでしょうか。なお、どうでもいいのですが、私が一番好きな横山先生の漫画は「マーズ」です(ラストがいきなり・・おっとっと。)。

横山先生の作品は、正直に言って特にストーリーに深みや何らかの問題提起が感じられる作品というわけではないのですが、常に職人のように淡々と、しかし時代の変化に適応しながら、読者のニーズに合った漫画を描いておられたように思います。

他方、巨大ロボット物の始祖であるとともに、現在少年誌でおなじみのトーナメント戦によるストーリー展開を「伊賀の影丸」において発明したのも横山先生であり、読者を楽しませるツボを押さえつつ新しい物に挑戦するチャレンジ精神も持ち合わせていました。  

さらに、自分の持ち味を新味に換骨奪胎するのも得意であり、忍者物の手法を「超能力」物に応用して、壮年期以降も「バビル2世」等のヒット作を生み出しました。

こういったストーリー(というかその中で行われるゲーム)構築や娯楽漫画についてのノウハウが結実したのが、「三国志」全60巻(希望コミックス版。この単行本表紙にはレジに持っていきにくい迫力があって良かったのですが、文庫版は無難な表紙でやや寂しい・・)であることは言うまでもないでしょう。この作品が始まる少し前の1960年代後期には、既に漫画界にも劇画ブームと読者の高年齢化という、あの手塚治虫先生でさえ苦しむ漫画家淘汰の激動の時代が到来していましたが、横山先生はこの荒波も見事に乗り切り、「三国志」は老若男女を問わぬ大ヒット作となりました。

そうして、横山先生は、まだ貸本というものが存在していた1950年代から2004年に亡くなるまで、第一線で漫画を描き続け、常にファンを獲得し続ける「巨匠」であり続けたのです。手塚治虫や石(ノ)森章太郎らと比べ、芸術・文学的観点から注目されることはあまりありませんが、漫画界に遺した功績は非常に大きいと言えます。

 

それはそうと、私は横山先生の諸作品を見るたび、感情を語らず黙々とミッションをこなし、誰にも知られずに去りゆく主人公のストイックさに妙に感心します(影丸やバビル2世の冷徹さは、時に悪役が気の毒になる程です)。そして、これが「強い」ということなのかも知れないなと感じたりもします。こうした横山漫画の主人公たちは、きっと半世紀ずっと漫画を描き続けてきた横山先生そのものなんだろうなと思います。

 

繊細さよりも、強くあること。

些末に拘泥せず根本で勝負すること。

惰性に流れず、時代を読み、進取の気風を失わないこと。

どんな時も屈することなく、とにかく続けていくこと。

 

プロフェッショナルであるべき私たちが、横山先生の作品に学ぶことは多いと感じる今日この頃です。

 



投稿者 小山法律事務所 | 2012年4月22日 18:00

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