Q 私は食料品卸の会社を経営しています。先日自社ビルの外壁がはがれて通行人の方に怪我をさせてしまいました。当然当社が治療費や慰謝料を被害者にお支払いしました。このビルは12年前に当社がA社から購入したもので、15年前にB社が建築したものです。そこで当社は外壁の修理費用と被害者にお支払いした治療費等を当社の被った損害として、A社やB社に請求できないでしょうか。本件ビルの外壁に欠陥があったことは事件後に判明しました。
<ご回答>
A 御社は本件自社ビルをA社から12年前に購入したのですから、まずA社に対し契約不適合責任(瑕疵担保責任、民法566条)を追及できないかを検討します。民法566条は「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは」損害賠償等を請求できないと規定しています。
そこで本件ビルの外壁は地震が起きたわけでもないのに突然はがれたのですから品質に関して瑕疵(欠陥)があったといえます。そして御社がその瑕疵に気付いたのは、今回の事件が判明してからですから、瑕疵を知ってから1年経過していません。したがって御社はA社に対して契約不適合責任を追及できそうですが、御社がA社から本件ビルを購入してから12年経過していることが契約不適合(瑕疵担保)責任による損害賠償請求権の消滅時効との関係で問題になります。
この点最高裁判所は「瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である」としています(最高裁判決平成13年11月27日)。一方債権の消滅時効期間は権利を行使することができる時から10年です(民法166条1項2号)。したがって、買主が売主に対し瑕疵担保責任(契約不適合責任)を追及するには、瑕疵(欠陥)を知って1年以内で、かつ、売主から引渡しを受けてから10年以内でなければなりません。結局本件では、A社から引渡を受けてから12年経過しているので、A社に損害賠償請求をすることはできません。
次にB社に対する損害賠償請求が可能かを検討します。御社はB社との間に
契約関係はありませんから、考えられるのは不法行為責任(民法709条)の追及です。そこで建築業者であるB社に不法行為成立の要件としての「過失」があるかが問題です。この点判例は、施行者等は当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと判示しています(最判平成19年7月6日)。本件では、建築後15年で突然外壁がはがれたのですから、「基本的な安全性が欠けることのないよう配慮すべき注意義務」を欠いた過失があるといえるでしょう。その過失によって通行人が怪我をし、御社は本件ビルの所有者として土地の工作物責任(民法717条)を履行し治療費や慰謝料そして外壁の修理費用の支払いという財産的損害を被りました。したがってB社の過失と御社の財産的損害との間には相当因果関係があります。そこでB社は御社に対して不法行為責任を負いますが、本件ビルの建築からすでに15年が経過しているので、御社のB社に対する損害賠償請求権の消滅時効が問題になります。
一般の債権の消滅時効は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で消滅時効となりますが(民法166条1項)、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、被害者保護の観点から、被害者等が損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年です(民法724条)。
したがって、本件では本件ビル建築から20年経っていませんので、御社はB社に対し損害賠償請求が可能です。