法律Q&A

Q 私は、従業員100人ほどの会社の人事部長をしています。先日トランスジェンダー(体は男性、心は女性)の従業員Aさんから、「同僚(Bさん)から性転換手術を受けていないなら男に戻ったら」と言われてショックだったと苦情がありました。Aさんは精神科医から正式に性同一性障害者と診断されていますので、女性の服装で出勤することを認めています。Aさんからの苦情に対し会社としてどのように対応したらよいでしょうか。

[SOGIハラ対策]

<ご回答>

A 同僚BさんのAさんに対する言動は、明らかのSOGIハラです。ここにSOGI(ソジ)とは、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の略称で、個人の性的指向と性自認のことです。LGBT又はLGBTQは性的マイノリティを指しますが、これに対しSOGIは、私たちそれぞれの性的指向や自分の性を表す言葉であり、全ての人にかかわるものです。したがってSOGIハラスメントすなわちSOGIハラは、個人の性的指向や性自認に対する嫌がらせです。

 個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることは、重要な法的利益です(東京地裁令和元年1212日判決)。Aさんは精神科医から正式に性同一性障害者と診断され、会社の了解を得て女性の服装で出勤しているのですから、Aさんの行動は法的に保護されます。これは性転換手術(性適合手術)を受けていなくても当然保護される利益又は権利です。したがってBさんの言動は、Aさんの権利を侵害するものとして、BさんはAさんに対し不法行為責任(民法709条)を負います。さらに御社も、Bさんの使用者として使用者責任(民法715条)を、さらに労働契約法5条に基づき労働環境配慮義務違反を問われる可能性があります。

 そこで御社は、Aさんからの苦情に対し、事実関係を明らかにし、Bさんの行為が会社の服務規律に違反し、懲戒事由に該当するのであれば、厳正に対処すべきです。またSOGIハラ行為が服務規律の禁止事項及び懲戒事由に規定されていないのであれば、至急就業規則を改正することをお勧めします。この点、厚生労働省が作成したモデル就業規則が参考になります。また従業員に対し性的指向や性自認を尊重することの重要性、どのような発言や態度がSOGIハラに当たるのかを周知させる社内研修もお勧めします。

 株式会社電通が2020年に行った調査によれば、日本におけるLGBTの人口は8.9%という結果が出ています。御社の場合は、8人又は9人がLGBTということになります。外部からはわからない場合が多いのです。

 経団連は「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」の提言で、LGBTに関する取組なくしては、人材募集及び退職抑制は達成できない旨協調しています。性的マイノリティに関して社会の認識は、10年前と全く違うのです。

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