Q 私は、自動車部品の製造会社(資本金5000万円)を経営していますが、製品の一部をA社(資本金1000万円)に製造委託しています。このところ原材料費と人件費の上昇で当社の粗利益が減少していますので、A社と相談し、下請代金を既発注分も含めて5%減額してもらうことにし、その旨の覚書に双方署名しました。下請法上問題があるでしょうか。
[下請法違反]
<ご回答>
A いわゆる下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者がその優越的地位を濫用することを防止し、下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護することを主たる目的としています。
下請法が適用される要件として、所定の資本基準がありますが、本件では、貴社が資本金1000万円を超え、A社が1000万円ですから下請法が適用されます。
そこで、まず貴社がA社に対する既発注分の下請代金を5%減額したことを検討しましょう。下請法では、親事業者は発注時にいわゆる3条書面を交付し、下請代金を定めなければなりませんから、本件では既発注分については代金が定められています。それを後に減額することは、下請事業者の責めに帰すべき理由、例えば納入品に欠陥がある等の理由がなければ認められません。本件で下請代金を5%減額したのは、貴社の粗利益を確保するためであり、A社の責めに帰すべき理由によるものでありませんので、下請法4条1項3号に違反します。たとえ親事業者と下請事業者が書面で合意してもこの結果は変わりません。親事業者の優越的地位の濫用ですから、書面による合意があっても違法なのです。
次に今後の発注分につき従来より5%安く価格を設定することを検討します。
下請法は、通常の対価より著しく低い価格を不当に定めること(買いたたき)を禁止しています(下請法4条1項5号)。買いたたきに当たるかどうかは、通常の対価との乖離の程度、及び対価の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたどうか等が考慮されます。本件では、従前価格より5%低い価格ですから著しく低い価格とはいえないかもしれませんが、原材料や人件費の上昇はA社にとっても同様であり、それなのに下請代金を下げるのは、通常の対価との乖離が著しく大きいといえるかもしれません。それですからA社と十分に協議しない場合は買いたたきに当たる可能性が高くなります。
下請法を管轄するのは公正取引委員会ですが、政府は最近価格転嫁を推進していますので、公正取引委員会も買いたたき等、下請法違反の事実がある法人に対しては、積極的に社名を公表しています。
以上から、今後発注分についても下請代金を5%下げることは、買いたたきとして下請法上問題となりえます。