法律Q&A

Q 私は、以前交際していた男性(A)から、「自分が死んだらこのマンションを君に贈与する。」と言われ、死因贈与契約を締結してもらいました。そのときAさんは仮登記できるように公正証書作成用の印鑑証明書もつけてくれましたが私はすぐに公正証書を作成しませんでした。ところが最近、Aさんが重い認知症になり、Aさんのご親族がそのマンションを売却しようとしていることが分かりました。  私にこれを阻止する方法はないでしょうか。

[死因贈与契約と権利の保全]

<ご回答>


A 貴方が死因贈与契約書作成後速やかに公正証書を作成していれば、貴方は単独で仮登記が出来ました。しかし今となってはAさんから受け取った印鑑証明書は期限切れでしょうから公正証書の作成は無理だと思われます。

 公正証書が作成されていなくてもAさんと貴方との間で作成された本件マンションにかかる死因贈与契約は有効で、Aさんが死亡したとき本件マンションの所有権は貴方に移転します。すなわち貴方は、Aさんが死亡したときを始期とする期限付きの所有権移転登記請求権を有しています。

 この始期付き所有権移転登記請求権を仮登記するためには、公正証書かAさんの承諾書が必要です。本件では公正証書はありませんし、Aさんは重い認知症ですから承諾能力もないと思われます。

 そこで次に、貴方としては、裁判所に対し仮登記を命ずる裁判を求めることができます(不動産登記法108条)。しかしこの裁判は、相手方(所有者)の言い分も聞かず、担保(保証金)も納めずに進められる手続きであるため、裁判所は非常に慎重で、事実上機能していません。

 そこで最後の手段として、貴方は民事保全法上の仮処分、すなわち処分禁止の仮処分命令を裁判所に求めることができます。貴方は前述しましたように死因贈与契約に基づき始期付き所有権権移転登記請求権を有しています。すなわち貴方は所有者に対し、始期付き所有権移転登記手続きをせよという訴訟を提起することができます。しかし訴訟は原告被告の間で主張立証を繰り返すものであり1年、2年かかるのが通常です。その間に相手方が目的物を処分してしまったら訴訟は無意味になってしまいます。そこで緊急の必要がある場合は、一定の担保(保証金)を供託して処分禁止の仮処分命令を出してもらうのです。これは登記されますので、所有者は事実上処分できなくなります。

 貴方の場合、Aさんのご親族が本件マンションを売却しようとしているのですから、緊急性の要件を充たし、裁判所は処分禁止の仮処分命令を出すと思います。保全処分は非常に専門的ですから弁護士に依頼することをお勧めします。

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