Q 私の会社は、従業員20人ほどで、スーパーマーケットを経営しています。先日、あるお客様がレジ係の従業員に対し、「接客態度が悪い、マニュアルどおりにやれ」とクレームをつけ、その場で30分にわたって説教をしました。そのお客様は時には激高してカウンターを強く叩くなどの行為に及んだため、その従業員は軽いメンタルヘルス不調をきたし、3日間会社を休みました。お客様のこのような不当な行為に対し、どのように対処すべきでしょうか。
<ご回答>
A スーパーマーケットの顧客が、接客態度が悪い従業員に対し注意することは、正当なクレームといえますが、それが執拗で30分にも及び、更に激昂してカウンターを強く叩く行為はもちろん正当な行為ではありません。それどころかこの顧客の行為は刑法の威力業務妨害罪を構成する可能性があります。このような顧客等からの著しい迷惑行為はカスタマーハラスメント(略して「カスハラ」ともいいます。)として近年社会問題になっています。御社は、至急対策を講じるべきです。今回被害者従業員の方は3日間のメンタルヘルス不調で済みましたが、これが重大な精神疾患をきたした場合、御社は、従業員の就業環境が害されないよう配慮すべき義務(労働契約法5条)に違反し、損害賠償責任を負うことになったでしょう。
顧客等の著しい迷惑行為には、クレームの内容自体が言いがかりである場合とクレーム自体は理由があってもその要求の仕方等が違法である場合があり、本件は後者に当たると思われます。
カスハラ対策としては、まず、被害従業員に一人で対応させるのではなく、対応責任者を決めて複数人で対応することです。そして事実関係をできるだけ正確に把握し、顧客に非があるのであれば毅然と対応すべきです。お客様が大切だとして、顧客に非があるにも関わらず被害従業員に謝罪させることは厳禁です。そのような場合、会社が被害従業員から損害賠償請求される可能性があります(平成30年11月13日甲府地裁判決参照)。
又従業員がカスハラに遭遇した場合、被害従業員が一人で悩まないよう、会社は相談担当者や相談窓口を決めておくべきです。相談担当者や前述の対応責任者は、カスハラ被害従業員の上司ということになると思います。カスハラに関して厚労省は「雇用管理上講ずべき措置等についての指針」という告示(令和2年厚労省告示第5号)を出していますので、御社はそれを参照し業種、業態に合った対応マニュアルを策定したらよいと思います。カスハラについては、初動対応を誤るとトラブルが拡大しますので、相談担当者等は、対応マニュアルを習得し、各従業員にも周知させるべきです。
しかし、顧客の執拗かつ不当なクレームにつき、常に社内の人員で対応するには限界もありますので、ケースによっては、対応を弁護士に任せたり、本件のように犯罪の可能性がある場合は、警察に通報することも選択肢となります。