私は中小企業で人事を担当している者です。1年ほど前、自転車通勤の従業員(A)が自転車を引いて歩道を歩いているとき、突然路地から自転車に乗って出てきた女性(B)がAさんの自転車にぶつかり転倒し、左足などを骨折する大怪我をしました。彼女は会社に遅れそうなので急いでいたそうですが、明らかに非は彼女にあります。しかし先日、Aさんは国から100万円を請求されました。どうしてでしょうか。Aさんは自転車保険に入っていませんでした。
<ご回答>
AさんとBさんの事故は、自転車同士の事故で、通勤途上の事故ですから、怪我をしたBさんに対しては、労働者災害補償保険法(労災保険法)が適用され、療養給付や休業給付がなされます。労災保険は被災者である労働者を簡易迅速に保護する観点から被災者の過失に関係なく給付されます。そして労災保険を管掌するのは政府すなわち国であり、国は被災者に代わって治療費等を支払った後、当該事故に責任のある当事者がいる場合は、その責任の程度に応じて求償(立替分の返還請求)します。
本件では、路地から突然飛び出してきてAさんの自転車にぶつかってきたBさんに非があります。しかし、Aさんが自転車と共に停止していたのならば、明らかに非は100%Bさんにありますが、Aさんは自転車を押し歩きしていたのですから、ある程度周りに注意する義務が認められます。おそらく過失割合は2:8で、Aさんにも2割の賠償責任があるとされたのだと思います。そこでBさんの治療費や休業補償等の合計が500万円で、その2割である100万円につき、Aさんは国から求償されたのだと思います。
本件ではAさんもBさんも通勤途上にあったわけですから、両者に労災保険法は等しく適用されます。しかしAさんは怪我をしていないのですから、労災給付はありませんが、Bさんは治療費などは全額、国が支払ってくれて、自己負担はありません。結果として、本件事故の責任が小さいAさんが100万円も自己負担することになり、納得のいかない面は確かにあります。
これは労災保険が補償保険、すなわち自分が怪我等をした場合の保険であり、賠償責任保険、すなわち他人に怪我等をさせた場合の責任を補填してくれる保険ではないからです。
自動車保険や火災保険でも自転車特約が付いている場合が多くなりましたが、Aさんの場合はその特約がなかったのだと思います。自転車通勤の場合、自分が怪我をする場合だけでなく、本件のように自分にほとんど非がなくても、相手が結果として大怪我をしてしまい、自分が賠償責任を負う羽目になる確率は、自動車事故と比べても低くありません。
自転車保険の保険料は高くありませんので、是非、付保しましょう。