当社は従業員50人の貨物運送会社で、定年は60歳ですが、希望すれば65歳まで嘱託社員として継続雇用されます。その場合期間1年の有期契約となります。当社の運転手(Aさん)は、昨年定年になり、継続雇用でそのまま運転手として働いていますが、給料は定年退職前の75%くらいです。仕事の内容は定年前と全く同じです。同一労働同一賃金の観点から問題があるでしょうか。
[同一労働同一賃金]
<ご回答>
同一企業内における正規雇用・非正規雇用の間の不合理な待遇差の解消を目的としてパートタイム・有期雇用労働法が改正され、同法は令和3年4月1日から中小企業にも適用されることになりました。そこで、定年後の継続雇用で期間1年の有期雇用契約になり、仕事の内容が全く同じであるのに給料が25%も減少したAさんの場合、同一労働同一賃金を規定したパートタイム・有期雇用労働法8条、9条違反とならないか問われます。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものか否かを判断する際に考慮されることになる事情として、パートタイム・有期雇用労働法8条は、「業務の内容・責任の程度、職務及び配置の変更の範囲、その他の事情」を掲げています。Aさんの場合、「仕事の内容が全く同じ」ということは、「業務の内容・責任の程度、職務及び配置の変更の範囲」は同じということだと思います。そこで、「その他の事情」を考慮してAさんの減給が合理的と評価できるかを検討します。「その他の事情」として考えられるのは、Aさんが定年退職して継続雇用になったということです。会社が定年制度を設けるのは財政上の理由もあります。すなわち定年間際の従業員は生産性の割に給料が高いのが通常ですから、この高い賃金を定年後も維持するのは会社にとって酷です。そこで定年退職後の再雇用であることを「その他の事情」として考慮し、正規雇用従業員との間で待遇差を設けることは判例でも認められています(平成30年6月1日最高裁判決、長澤運輸事件)。
もっとも待遇差が合理的かどうかは、給料の場合、その総額ではなく、基本給、賞与、その他の手当ごとに、判断すべきです(パートタイム・有期労働法9条参照)。上記の判例では、賞与不支給は合理的な待遇差であるが、精勤手当の不支給は合理性がないとしています。
Aさんの場合も、定年退職後再雇用として賞与が不支給となり賃金総額が75%になったのであれば、合理的待遇差として認められると思います。
もっとも、退職後、期間1年の契約社員になったら給料が半分以下になったというケースはよくありますが、その場合は、業務上の責任が軽減されている等の事情がなければ、パートタイム・有期労働法違反の責任を問われます。