Q 私は貨物自動車運送事業を営んでいる従業員30人の会社の社長です。 先日従業員Aが業務終了後、帰宅途上で飲酒し、普通自動車を運転中、酒気帯び運転で検挙されました。事故は起こしていません。Aはその事実をすぐに私に報告しました。会社の就業規則では、業務内、業務外を問わず、飲酒運転又は酒気帯び運転をしたときは懲戒解雇とし、退職金も支給しない旨規定されています。Aを懲戒解雇にすべきか悩んでいます。又退職金を全額不支給にすべきでしょうか。
<ご回答>
A 本件では職場外の私的行為につき、懲戒処分の可否が問われています。職場外での、職務遂行に関係ない行為であっても、企業秩序に直接の関係を有するものや、企業評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については、企業秩序維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあり得る、とされています(最高裁昭和49年2月28日判決)。
この判例は飲酒運転に関する裁判例で引用されています。特に最近は飲酒運転や酒気帯び運転に対する一般社会の見る目は厳しいですから、自動車運送業の会社の就業規則には、御社のように規定されています。
しかし就業規則に定めればそのまま効力を生ずるものではありません。就労関係は労働者の生活の基盤ですから、懲戒処分は、適正な手続きの下、行為と罰則の均衡(比例原則)が要請されます。
まず、本件で、Aさんがドライバーでもなければ管理職でもない場合、懲戒解雇は重すぎるし、解雇するにしても、諭旨解雇で退職金は全額支給すべきでしょう。
次に、Aさんがドライバー又は、他の従業員に範を示すべき管理職の場合は、事情聴取でAさんの弁解をよく聞き、その結果に応じて、懲戒解雇にするかどうか、懲戒解雇にするにしろ退職金の一部を支給すべきかどうかを決めるべきです。
事情聴取では、飲酒運転は進んで行われたものか、必要に迫られてか、普通自動車は誰のものか、飲酒運転した距離・時間はどれほどか、などを聞き取ります。事情聴取の結果、飲酒量が最低限(呼気1リットル当たり0.15ミリグラム)で、タクシーや代行運転の利用もできない状況で、運転距離も1キロメートル以内であった場合、懲戒解雇は重すぎると思います。
また懲戒解雇がやむを得ない場合であっても、退職金の全額不支給は、慎重にすべきです。退職金は、賃金の後払い的性格を有しますので、全額不支給は、退
職する従業員に長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由が存在する場合に限るべきです(ヤマト運輸懲戒解雇事件、東京地裁平成19年8月27日判決)。