Q 私は、従業員20名ほどの建設下請け会社を経営しています。従業員の中に仕事上のミスが多く、勤務態度もよくないAさんがいます。Aさんの行為は就業規則の服務規律に反していますので、解雇しようとも考えましたが、法的トラブルは避けたいので、退職勧奨をしようと思っています。退職勧奨をする上で法律上どのような点に注意したらよいかご教示ください。
<ご回答>
A 退職勧奨とは、使用者が労働者に対して辞職や労働契約の合意解約の承諾を促すことをいいます。使用者が経営上の理由によるリストラを行うに際して目標退職者数を確保する目的で行うこともあり、又労働者に普通解雇事由あるいは懲戒解雇事由が認められる場合に、労働者の再就職の不便に配慮して退職勧奨が利用される場合もあります。又解雇とした場合、訴訟リスクを負担することになりがちです。労働契約法上、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効となります(16条)。このように法律の規定は抽象的なので、経営者において普通解雇事由が認められると信じても裁判をやってみなければわからない部分が残ります。これは解雇の場合だけではなく労働法上の問題全般についての特徴といえます。そこで、御社のように、Aさんに就業規則上の服務規律違反が認められても、訴訟等の法的リスクを避けて、退職勧奨を試みるのは賢明です。
そこで、ご質問の退職勧奨を行う場合の注意点ですが、退職勧奨の態様や方法が社会通念上相当と認められる限度を超えると不法行為とされます。退職勧奨は、労働者の自発的な退職意思の形成を促す説得行為ですから、相手の自由意思を制圧するような言動は不法行為を形成し慰謝料を請求されることにもなりかねません。又退職勧奨対象の労働者が退職の有利不利を十分に検討した上で退職拒絶の意思を表明した後は、新たに有利な条件を提示しない限り、執拗に退職勧奨を繰り返すことは違法であり、不法行為を形成します。
そこで御社の場合、Aさんが自発的に退職勧奨に応じるよう、退職勧奨手続きの中で、服務規律違反等の普通解雇事由につき証拠を示し、Aさんの弁解も聞くべきです。そこでAさんが服務規律違反等の解雇事由を認めるなら、退職を促す合理的理由があるので、退職勧奨行為が違法性を帯びることはまずありません。この場合、御社に退職金制度があるなら会社都合退職としての退職金と有給休暇の残りを解消した日での退職という条件をAさんに提示するのがよいと思います。退職金制度がないのであれば、解雇予告手当相当額(給料1か月分)を支給すべきです。
又Aさんの服務規律違反の証拠が十分ではなく、Aさんの弁解にも理由がある場合には、退職勧奨を断念するか、新たに金銭的に有利な条件等を提示したうえで、退職勧奨を続けることになります。