法律Q&A

Q 当社は従業員200人の建設会社ですが、先日、営業担当のA部長が従業員のBさんに対し、「意欲がない、やる気がないなら会社を辞めるべき、貴方の給料で営業職が何人雇えると思いますか。これ以上会社に迷惑をかけないでください。」とメール送信したところ、Bさんは、A部長のパワハラによりうつ病になったとして、A部長ばかりでなく、会社に対しても損害賠償請求するとのことです。 Bさんのパワハラ主張は認められるでしょうか。又は今後このようなことを防止するにはどうしたらよいでしょうか。

[職場でのパワハラと防止対策]

<ご回答>

A パワハラ(パワーハラスメント)とは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されることをいいます(労働施策推進法30条の2)。パワハラの行為類型としては、①暴行・傷害(身体的な攻撃)、②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)、③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)等があり、業務上の適正な指導の範囲内か、それを超えたパワハラであるかの線引きは難しい場合が多いです。

 本件と同様な事案で裁判所は「業務指導の一環として行われたものであり、私的な感情から出た嫌がらせとは言えず、その内容も原告(被害者)の業務に関するものにとどまっており、メールの表現が強い内容になっているものの、いまだ原告の人格を傷つけるとまで認めることはできない」と判断して不法行為の成立を否定しました(東京地裁平成16年12月1日)が、その控訴審では、その表現方法が「人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分と相まって...名誉感情をいたずらに毀損」し、「指導・叱咤激励の表現として許容される限度を逸脱したものと評せざるを得ない」として不法行為の成立を肯定しました(東京高裁平成17年4月20日)。

 上記高裁判決の内容から、職務上の指導監督の範囲内のようでも、表現が侮辱的等であれば人格攻撃としてパワハラになります。

 したがって設問の場合、A部長は不法行為責任を負い、御社も使用者責任(民法715条)を負う可能性があります。

 また前述の労働施策推進法30条の2(いわゆるパワハラ防止法)は、パワハラを防止するため、事業主は、パワハラ被害者の相談窓口の設置、その他適正に対応するために必要な体制整備等の措置を講じるよう求められています。この規定は令和4年4月1日からは中小企業にも適用されます。

 それですから、今後は、御社においても、パワハラ被害者の相談窓口の設置はもちろん、パワハラ被害者・加害者・目撃者等のヒアリング調査、加害者の処分等についても、体制を整備し、就業規則にもその旨定めて周知する必要があります。このような体制の整備を怠りパワハラの被害が生じたときは、単に加害者が不法行為責任を負うだけではなく、御社自身が労働契約上の債務不履行責任(労働契約法5条、民法415条)を負うことになります。

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