Q 私は、家具販売会社で営業の仕事をしています。この度同業他社から誘いがあり、同じ神奈川県内にあるその会社に転職しようと思っています。しかし、私の会社では、労働契約において、「退職後2年間は、神奈川県内において許可なく会社と競業する他社に就職し、また業務を営むことを禁止する。」と記載されています。 なお、私が同業他社からの誘いで転職を考えたのは、今の会社の待遇、特に給料や退職金が平均的同業会社より低いからです。この労働契約における競業禁止規定により、私は転職できないのでしょうか。
[企業法務]
<ご回答>
A 労働者は、会社との間で雇用契約という法律関係を締結しています。それですから労働者は、在職中に、使用者と競業する事業を営んで、使用者の利益を害することをしてはならない法的義務を負っています。これが競業避止義務です。
問題は、雇用契約などで、退職後も同様に競業避止義務を負う旨規定することが認められるか、です。契約自由の原則から当然に認められそうですが、日本国憲法では、職業選択の自由を認めています(憲法22条1項)。この規定は営業の自由も含みます。憲法は国家権力を規制するものですから、この規定が直接国民の間の契約を規制するわけではありません。しかし、憲法が国民に職業選択の自由を人権として認めているのですから、個人間においても、契約でこの自由を不当に制限した場合、民法上、公序良俗違反として契約は無効となります(民法90条)。
また憲法が営業の自由を保障しているのは、自由な経済上の競争により、国民が良質で安価な財やサービスを享受するという社会的利益を確保するためでもあります。それですから競業避止義務を広く認めると、このような社会的利益も害されます。
そこで、労働契約などで規定される競業避止義務が有効であるためには、会社の利益(営業上の秘密等)を守るため必要かつ合理的なものでなくてはなりません。特に競業禁止の期間、地域、代償措置の有無等を総合的に考慮して判断されます。
貴方の場合、同業他社で営業の職に就くのであれば、その会社は神奈川県内にあるのですから競業禁止規定に抵触するおそれがありそうですが、貴方の転職の動機からみて、貴方の転職は認められると考えます。
貴方の転職の動機は、給料や賞与に対する不満ということですが、会社は競業禁止を従業員に強いる以上、その代償措置として、給料を同業他社より高くするとか退職金を多めにする等、代償措置を講ずべきです。また従業員が不満を抱いているのに転職を禁止することは、自由競争による社会的利益を損なうものといえます。したがって、貴方の場合、転職は認められると考えます。
貴方の転職に対し、会社が損害賠償や差止請求をした場合、貴方は上記を理由に争うことができます。