私はある中小企業の人事部長です。当社はあるマンションの1室(303号室)を所有し従業員Aさんに安く賃貸しています。最近Aさんから苦情があり、すぐ下の203号室の所有者Bさんのオーディオの音がうるさくて睡眠が妨げられ、再三Bさんに注意しても聞き入れてもらえないとのことでした。Aさんはこの件で神経を病み円形脱毛症になってしまいました。Bさんにこのような迷惑行為を止めさせるにはどうしたらよいでしょうか。

マンションの区分所有者や居住者は、他の区分所有者等に迷惑をかけないよう管理規約細則等で騒音等につき規制されています。一般に受忍限度を超える騒音は、不法行為(民法709条)を構成し、損害賠償請求の対象になりえます。本件でAさんは睡眠を妨げられ、かつ円形脱毛症になったのですから、Bさんのオーディオの音量は、受忍限度を超えていることは明らかです。受忍限度を超えるかどうかは、いろいろな事情を考慮して判断されます。騒音においては、夜と昼でも基準となる音量は異なります。昼の時間帯では53ⅾB(デシベル)を超えると違法となり、一方夜の時間帯では40dBを超えると受忍限度を超えると判断した判例があります(東京地裁平成24年3月15日判決)。40dBとは、冷蔵庫の運転音や5メートル離れて聞こえる程度のささやき声ですから、この判例の基準によると、本件は明らかに受忍限度を超えています。
そこで、Aさんとしては、民法709条に基づきBさんに対し損害賠償請求をすることが考えられます。この場合Aさんは円形脱毛症をきたす程の精神的苦痛を被ったのですから、Bさんに対し慰謝料請求(民法710条)をすることになります。しかし損害賠償請求は間接的にBさんの出す音量を抑えることになるかもしれませんがが、直接Bさんの行為を差し止めることは出来ません。
Bさんの行為を止めるためには、管理組合の理事長や管理会社の担当者にBさんを説得してもらうのも1つの手ですが、Aさんが再三注意してもダメだったのですから、これもあまり期待できません。
次に、区分所有法57条は、受忍限度を超える騒音作出等共同利益背反行為の停止請求について規定しています。これは管理組合の集会で騒音等の停止請求を決議するもので、訴訟も提起できます。集会決議は普通決議でよいのですが、多数決ですから区分所有者のとりまとめ等の手続きが煩雑です。
そこでAさんは、人格権に基づき、Bさんに対し、一定の音量以上の騒音の差止請求をすることが考えられます。人格権とは憲法13条の幸福追求権に由来する権利で、人が人として当然に持つ、生命、身体、自由、名誉等、個人の人格的利益を保護するための権利の総称です。人格権は、所有権と同様に、誰に対しても妨害排除を請求でき、相手方の故意過失も要件としません。
この場合AさんはBさんに対し、人格権の侵害を理由に過去の精神的苦痛に対する慰謝料の請求とともに、将来における一定以上のオーディオ音量の作出排除を請求できます。
人格権侵害を理由とする場合、Aさんは、Bさんの故意過失を立証する必要はありませんが、人格権侵害自体は当然立証しなければなりませんから、騒音が一定以上であることを、騒音測定器で測定しておくべきです。