私は、雑貨卸会社を経営している者ですが、先日私の長男A(18歳)から、「1年前にX(旧ツイッター)上で、B社主催の景品獲得ゲームに参加し、500万円もの債務を負ってしまった、昨日、B社の社長から強く請求されたので、必ず支払うと約束した。」と打ち明けられました。
また昨日、B社社長から100万円だけでも私に支払ってもらいたいと連絡があり、100万円をB社に振り込みました。長男は残金400万円を支払わなければならないでしょうか。
なお、長男が獲得した景品は全てB社に返還済みです。

貴殿の長男が負った債務が500万円ということから、これは単に参加費用だけでなく、ゲームの過程で景品を換金できる仕組みになっていると思われます。したがって本件景品獲得ゲームは賭博罪(刑法185条等)を構成し、本件取引は公序良俗違反(民法90条)で無効となる可能性があります。そこで、以下賭博罪に該当しない場合を前提に検討します。
貴殿のご長男Aさんは本件ゲーム参加時17歳で未成年者でしたので、未成年を理由とする本件取引の取消し(民法5条2項)が可能かを検討します。未成年者による法律行為は常に取消しできるものではなく、成年者であるとか又は法定代理人の同意を得ている等と詐術を用いたときは取消しできません(民法21条)。本件でAさんにそのような事情はないとして以下検討を進めます。
まずAさんは、18歳になってから、B社社長の請求に対し、「必ず支払います」と述べていますが、これが追認(民法123条)に該当するかを検討します。追認と認められれば取り消すことはできません。追認の要件は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ取消権を有することを知った後にしなければ効力を生じません(民法124条1項)。この後半の要件は令和2年の民法改正で追加されたものです。
本件でAさんは既に18歳ですから、取消しの原因となっていた状況は消滅しています。そしてAさんは自分が取消権を有することを知っていたかというと、知っていないのが通常です。本件では支払えなくて困り父親である貴殿に相談したのであり、もし取消権を有することを知っていたのであれば、貴殿に相談することなくAさんは直ちに取消権を行使していたはずです。
したがってAさんがB社社長に対し「かならず支払います」と述べたことは追認には当たりません。
次に貴殿が100万円をB社社長に支払ったことが法定追認(民法125条1項)にならないかを検討します。民法125条は、追認をすることができる時以降に履行等(一部履行を含む)をした時は、追認したものとみなす、と規定しています。そしてこの場合は、取消権の存在を知っていたことは要件でないというのが古い判例です。
しかし法定追認の主体は、成人となった行為者か又は法定代理人ですが、Aさんがすでに成人しているのですから貴殿はもう法定代理人ではありません。したがって貴殿の100万円返済は法定追認にはなりません。そこで、AさんはB社に対し本件取引を取消すことができます。取消の結果、Aさんの債務はなかったことになりますので、残金400万円は支払う必要はありません。また貴殿は支払った100万円の返還を不当利得を理由にB社に請求できます。