実力行使による建物明渡し(弁護士 五明 豊)

 前回に引き続き,今回も建物の明渡しについて書きたいと思います。今回のテーマは,建物を明け渡さない賃借人に対して,賃貸人の側で明渡を強行できるかです。

 

第1 自力救済の禁止

 1 賃借人に賃料の未払等があったため,賃貸人の側で賃借人の部屋に無断で立ち入り,部屋の中にある物を搬出して建物明渡を強行することなどの自力救済は,原則として禁止されています。したがって,賃借人による任意の明渡が期待できない場合には,裁判手続をとって,強制執行による明渡を図るべきです。

   無理に自力救済を行えば,民事上,賃借人から不法行為に基づく損害賠償請求をされたり,刑事上も,住居侵入,窃盗等で告訴される等のリスクがあります。

   なお,賃料不払い等により,賃貸借契約が解除されていたとしても,上記リスクを伴うことは同様です。なぜなら,賃借人には賃貸物件を利用する権利はなくなっていますが,賃貸物件を占有しているという事実に基づく権利(占有権,民法180条)があり,自力救済はこの占有権を侵害することになるからです。

 2 もっとも,自力救済は絶対的に禁止されるわけではなく,法律の定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ,その必要の限度を超えない範囲内であれば,例外的に自力救済が認められます。

   では,上記特別の事情をどのように判断するかというと,①立ち入る場所が占有物件内か,共用部分か,②賃貸物件の利用状況(不在か否か),③賃貸人は賃借人に対し通知等をしていたか,④残置物の取扱いの態様等が,裁判上考慮されています。

 3 しかし,これらの考慮要素は総合的に判断されるものであり,裁判になった場合,どのような結論になるか見通しを立てづらいです。したがって,建物の明渡は,自力救済によらず,法的手続をとるほうが無難であると言えます。

 

第2 自力救済に関する特約

 1 賃貸人と賃借人の間で,自力救済に関する特約,例えば,家賃を滞納した場合には建物立入りを認める特約,賃貸借契約終了後は部屋にある物を搬出・処分できる旨の特約,家賃を滞納した場合には,部屋の鍵を交換できる旨の特約等を締結していたとしましょう。

 2 このような特約は果たして有効でしょうか。

   このような特約は,賃借人の部屋に対する賃借権,占有権及び部屋にある物の所有権を侵害するものであり,公序良俗に反し無効となります(民法90条)。

   したがって,上記特約に基づく自力救済も違法な行為となり,損害賠償請求等がなされるリスクがあります。

 3 なお,「本件建物の明渡後,賃借人は本件建物内に残置した物の所有権を放棄し,賃貸人が当該物を自由に処分できる。」旨の特約(残置物処理特約)が結ばれることもありますが,これは建物を明渡後の話であり,一般的に有効な特約です。

   今回,問題としているのは,あくまでも明渡しが済んでいない段階での話ですので,混同しないようにしてください。

                                          以 上

 



投稿者 小山法律事務所 | 2012年9月12日 18:22

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