よくわかる相続の法と税務(8) 弁護士 小山 治郎

今回は、葬式費用、生命保険、相続債務のある場合を説明します。

 相続関係図

相続関係図(7)(8).png

 遺産内容等

  預貯金 5000万円

  土地・建物 3000万円(土地につき小規模宅地特例適用済み)

  債務 4000万円

  生命保険 二男Dを受取人として2000万円、長女Eを受取人として2000万円、Aが契約者で全て保険料を負担

  葬式費用 300万円

 

1 遺産分割協議

  相続人である長男C、二男D及び長女Eは、次のように遺産を分けることにしました。

 ⅰ CAと同居していたので、土地建物と債務4000万円を相続し、葬式費用300万円を負担する。

 ⅱ DEは、各2000万円の生命保険受取人になっているので、預貯金5000万円のうち、各1000万円を相続し、残り3000万円はCが相続する。

 

2 課税価格の計算

  相続人が生命保険の受取人になっている場合、その生命保険金は民法上相続財産ではなく、受取人固有の財産ですが、相続税法上では相続財産とみなされまず(法311号)。また、被相続人の債務については、法定相続分に応じて当然分割され債権者は各相続人に請求できますが、遺産分割協議で特定の相続人が全部負担すると定めれば、税務当局はそれを尊重します。そこで、課税価格の計算は、次のようになります。

C

D

E

 

相続財産

6000万円

1500万円

1500万円

 

みなし取得財産

2000万円

2000万円

 

非課税財産

750万円

750万円

 

債務・葬式費用

4300万円

 

 

 

1700万円

2750万円

2750万円

 課税価格の合計 1700万円+2750万円+2750万円=7200万円

  なお、非課税財産の計算は以下のとおりです。

   非課税限度額=500万円×法定相続人の数(法1215号イ)

500万円×3

1500万円

   保険金の合計=2000万円×2

4000万円>1500万円

 よって、D及びEの非課税財産は次のようになります(法1215号ロ)。

   1500万円×2000万円/4000万円=750万円

 

3 基礎控除額及び課税遺産額の計算

  基礎控除額は3000万円+600万円掛ける法定相続人の数(16条)、ですから、

   3000万円+600万円×34800万円

 となります。

  よって、課税遺産額は

   7200万円-4800万円=2400万円

 となります。

 

4 相続税の総額の計算

  課税遺産額を法定相続人が法定相続分で取得したと仮定し、速算表で相続税額を算定します。

C

2400万円×13

800万円

D

2400万円×13

800万円

E

2400万円×13

800万円

 

C

800万円×0.1

80万円

D

800万円×0.1

80万円

E

800万円×0.1

80万円

240万円

 

5 算出税額の計算

  算出税額は、相続税の総額を課税価格で按分します(法17条)。

 按分割合(小数点以下第3位四捨五入)

C

1700万円÷7200万円=

0.24

D

2750万円÷7200万円=

0.38

E

2750万円÷7200万円=

0.38

算出税額

C

240万円×0.24

576000

D

240万円×0.38

912000

E

240万円×0.38

912000

 

6 納付税額の計算

  本件では、贈与税額控除等はありませんので、算出税額が納付税額です。

 

投稿者 小山法律事務所 | 2017年9月 8日 11:30

よくわかる相続の法と税務(7) 弁護士 小山 治郎

今回は特別受益(民法903条)がある場合を説明します。

 相続関係図

相続関係図(7)(8).png

遺産内容等

 預貯金 8000万円

 二男Dは、平成27610日、被相続人Aから生活資金として現金300万円の贈与を受け、贈与税185000円を納付

 長女Eは、平成25610日、被相続人Aから現金1000万円を住宅建築資金として援助してもらい、非課税限度額内であったため贈与税はなし

 債務と葬式費用は無視

 特別受益を考慮し具体的相続分で分割

 

1 各相続人の相続財産の計算

  共同相続人の中に生計の資本などとして被相続人から贈与を受けている者がいる場合、その贈与を受けた財産の額を現有相続分に加えて分割します(民法9031項)。その計算結果から、贈与を受けた者の贈与分を控除してその者の具体的相続分を計算します。

C

(8000万円+300万円+1000万円)×13

3100万円

D

(8000万円+300万円+1000万円)×13300万円=

2800万円

E

(8000万円+300万円+1000万円)×131000万円=

2100万円

合計

8000万円

  すなわち、長男C3100万円、二男D2800万円、そして長女E2100万円がそれぞれの相続財産になります。特別受益制度では、生前贈与を受けた者はその分相続財産額が少なくなり、相続人間の実質的公平を図っています。もっとも生前贈与があまり多くて計算上マイナスになったら、その者の相続財産はゼロとなります(民法9032項)。つまり、マイナスになっても自分の固有財産で補う必要はありません。

 

2 課税価格の計算

 民法の特別受益制度では、何年前の贈与でも現有遺産に加算します(「持ち戻し」といいます)が、相続税法では、3年以内の贈与に限って持ち戻します(法19条)。これは、相続開始間際に不当に多くの贈与を行い相続税の課税を回避するのを防止するためだと思われます。そこで3人の課税価格は次のようになります。

C

D

E

相続財産

3100万円

2800万円

2100万円

3年以内の贈与

 

300万円

 

3100万円

3100万円

2100万円

 課税価格の合計

  3100万円+3100万円+2100万円=8300万円

 

3 基礎控除額の計算

  計算式は、3000万円+600万円×法定相続人の数ですから(法15条)、

   3000万円+600万円×34800万円

 となります。

 

4 課税遺産額の計算

  課税価格の合計から、基礎控除額を差し引きします。

   8300万円-4800万円=3500万円

 

5 相続税の総額の計算

  法定相続人が民法900条の法定相続分で相続したと仮定して課税遺産額を分割し、相続税を計算します(法16条)。すなわち、民法903条の特別受益を考慮した具体的相続分ではなく、900条の法定相続分で分割します。これはどのように分割するかで相続税の総額が異なるのを防止するためでしょう。

C

3500万円×13

11666000

 

D

3500万円×13

11666000

E

3500万円×13

11666000

(千円未満切捨て)

  次に速算表で各人の相続税額と総額を算定します。

C

11666000円×0.1550万円=

1249900

D

11666000円×0.1550万円=

1249900

E

11666000円×0.1550万円=

1249900

相続税の総額

3749700

 

6 算出税額の計算

  各人の算出税額は、相続税額の総額を各相続人の課税価格で按分して算出します。

  按分割合

C

3100万円÷8300万円≒

0.37

D

3100万円÷8300万円≒

0.37

E

2100万円÷8300万円≒

0.26

合計

1.00

  小数点以下3位を四捨五入すると合計が1.00になりませんので、相続分が少ない長女Eの按分割合を切り上げました。合計が1.00になればどのように按分割合を定めても税務署は文句を言いません。

  各人の算出税額の計算

C

3749700円×0.37

1387300

 

D

3749700円×0.37

1387300

E

3749700円×0.26

974900

100円未満切捨て)

 

7 納付税額

  長男Cと長女Eは、算出税額が納付税額ですが、3年以内の贈与を受けた二男については、既に納付した贈与税185000円を控除します(法191項)。これは、相続開始前3年以内の贈与は無かったものとして課税価格に加えていますので、納付した贈与税額を控除しないと二重課税になってしまうからです。

  よって、二男Dの納付すべき税額は

   1387300円-185000円=1202300

 となります。

投稿者 小山法律事務所 | 2017年8月28日 13:45

よくわかる相続の法と税務(6) 弁護士 小山 治郎

今回は、養子が複数いる場合を説明します。

 相続関係図

 相続関係図(6)'.png

 遺産内容等

  預貯金 9000万円

  葬式費用と債務は無視

  預貯金9000万円を法定相続分で分割

 

1 被相続人のAは、生前、相続税の節約をかねて長女Dの婿Cと、可愛がっていた孫のE2人を養子にしました。

  法定相続人は実子であるDと養子のC及びE3人です。実子も養子も法定相続分は平等で、各13です。

 

2 課税価格の計算

C

9000万円×13

3000万円

D

9000万円×13

3000万円

E

9000万円×13

3000万円

合計

9000万円

 

3 基礎控除額と課税遺産額の計算

  基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数、で算定されますが、養子が複数いる場合は注意が必要です。法定相続人の数は原則として民法の規定に従いますが、養子がいる場合、相続税法で上記法定相続人に入れる数を制限しています(法152項)。すなわち、被相続人に実子がいる場合は、上記法定相続人に算入できる養子は1人、実子がいない場合は2人までに制限されます。これは、基礎控除額を多くして相続税を不当に少なくする行為を防止するためです。本件では、Dが実子ですから、基礎控除額計算に算入できる養子は1人です。そこで、基礎控除額算定上の法定相続人の数は、実子1人と養子1人の2人になります。

よって、基礎控除額は、

   3000万円+600万円×24200万円

 となります。

  また、課税遺産額は、

   9000万円-4200万円=4800万円

 となります。

 

4 相続税の総額の計算

  相続税の総額は、法定相続人が法定相続分に応じて課税遺産額を取得したと仮定して算出しますが、この場合の法定相続人の数にも、養子の数の制限が及びます(法16条)。すなわち、相続税は超過累進課税率を採用していますので、養子縁組で不当に相続人の数が多くなると相続税総額が少なくなってしまいますので、それを防止するため、この場合も養子の数を制限しています。

  そこで、課税遺産額を法定相続人2人が次のように取得したとして計算します。

D

4800万円×12

2400万円

C又はE

4800万円×12

2400万円

合計

4800万円

  次に速算表で、相続税の総額を算定します。

D

2400万円×0.1550万円=

310万円

C又はE

2400万円×0.1550万円=

310万円

相続税の総額

620万円

 

5 算出税額の計算

  算出税額は、相続税の総額を課税価格の割合で按分します。

  本件で按分割合は各相続人とも3000万円÷9000万円=13となり、割り切れませんので、13をそのまま使うことにします。

C

620万円×132066600

 

D

620万円×132066600

 

E

620万円×132066600

100円未満切り捨て)

 

6 2割加算

  長女Dと婿Cは、算出税額が納付税額となりますが、孫Eに対しては2割加算があります。2割加算は、1親等の血族及び配偶者以外の相続人に対して行われます(法181項)。Eは、被相続人Aの孫ですが、養子縁組をしていますので、1親等の法定血族です。しかし被相続人の直系卑属(孫など)が養子になった場合は「1親等の血族」に含めないとされています(法182項)。すなわち、孫養子は2割加算されるのです。孫養子をその他の養子と区別(差別)して2割加算するのは、親が子を飛び越えて孫に相続させると、その分だけ子の段階で課税できなくなるからでしょう。やはり国税は抜け目ないですね。

  よって、E2割加算後の税額は

   2066600円×1.22479900円(100円未満切り捨て)

 となります。

 

7 未成年者控除

  しかしEは相続開始時に9歳で未成年者ですので、未成年者控除(法193項)が適用されます。よって、Eの納付すべき税額は、

2479900円-10万円(209)

2479900円-110万円

1379900

 となります。

  結局Eは、2割加算されましたが未成年者控除が適用されたため、CDより納税額は少なくなりました。

 

投稿者 小山法律事務所 | 2017年8月14日 14:27

よくわかる相続の法と税務(5) 弁護士 小山 治郎

今回は養子がいる場合を説明します。

 相続関係図

相続関係図(5).png

遺産内容等

 預貯金 8000万円

 葬式費用と債務は無視

 預貯金8000万円を法定相続分で分割

 

1 被相続人のBは、三男Eの遺子で孫のGを非常に可愛がり養子にしました。遺言がなかったので、長男C、次男D、そして嫁FGの法定代理人)が遺産分割について話し合いました。問題は、Gの相続分です。Gは、Eの子として代襲相続人です。また被相続人Bの養子として本位相続人(本来の相続人)でもありますから、2つの地位を併有し、相続分の加算を認めるか、すなわち、Gの相続分は、13、なのか、14×212、なのか、が問題です。

  被相続人のBは孫の相続分を多くするために養子縁組をしたわけではないでしょうし、Gの相続分が12になると、長男Cや次男Dも不満を述べるかもしれません。実際、学説でも加算を認めるべきではないという説もあります。しかし加算を否定する根拠は乏しく、認めるのが多数説であり、判例でもあります。

 

2 課税価格の計算

C

8000万円×14

2000万円

D

8000万円×14

2000万円

G

8000万円×12

4000万円

 

 

 

 

3 基礎控除額と課税遺産額の計算

  基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数、で算定されます(法151項)。そこで、本件では、Gが代襲相続人でもあり、養子でもありますから、これを2人と数えて、合計4人として基礎控除額を計算できれば節税になりますね。しかし税法はそれほど寛大ではありません。解釈上もG2つの地位を併有するだけで、法定相続人としては1人です。

  そこで基礎控除額は、

   3000万円+600万円×34800万円

 となります。

  また、課税遺産額は、

   8000万円-4800万円=3200万円

 となります。

 

4 相続税の総額の計算

  まず、法定相続人の法定相続分に応ずる各取得金額を計算します。

(課税遺産額)

(法定相続分)

(取得金額)

C

3200万円

×

14

800万円

D

3200万円

×

14

800万円

G

3200万円

×

12

1600万円

  次に、相続税の速算表で相続税額を計算します。

C

800万円×0.1

80万円

D

800万円×0.1

80万円

G

1600万円×0.1550万円=

190万円

相続税の総額

350万円

 

 

5 算出税額の計算

 按分割合

  按分割合は、各人の課税価格を課税価格の合計で除して計算します。

C

2000万円÷8000万円=

0.25

D

2000万円÷8000万円=

0.25

G

4000万円÷8000万円=

0.50

合計

1.00

 算出税額

C

350万円×0.25

875000

D

350万円×0.25

875000

G

350万円×0.5

175万円

合計

350万円

 

6 納付税額の計算

  CDは、算出税額が納付税額になりますが、Gは未成年者ですので、未成年者控除(法19条の3項)が適用になります。これは、20歳になるまでの年数(端数は切り上げ)に10万円を乗じた金額を算出税額より控除する制度です。未成年者は普通成年に達するまで収入がないので相続税を軽くしたのでしょう。しかし私は、遺産をもらえるだけでも恵まれているのですから、この制度には違和感を覚えます。

  それはともかく、Gは相続開始時に9歳と5ヶ月ですから、

   未成年者控除額=10万円×(209)110万円

 となります。よって、Gの納付額は、

   175万円-110万円=65万円

 となります。

 

投稿者 小山法律事務所 | 2017年7月31日 13:32

よくわかる相続の法と税務(4) 弁護士 小山 治郎

今回は、兄弟姉妹が相続人である場合を説明します。

相続関係図

  相続関係図(4).png

遺産の内容等

  預金 9000万円

  長男I5000万円の生命保険の受取人

  長男Iは相続放棄

  預金9000万円を法定相続分で分割

  債務と葬式費用は無視

 

1 この場合、長男Iは相続放棄していますので、第三順位の兄弟姉弟が相続人になります。また、弟Gが相続開始前に死亡していますので、姪J及び甥Kが代襲相続人になります。被代襲者の義妹Hは代襲相続人になりません。

 

2 相続分の計算

E

9000万円×13

3000万円

F

9000万円×13

3000万円

J

9000万円×13×12

1500万円

K

9000万円×13×12

1500万円

合計

9000万円

 

3 課税価格の計算

E

F

J

K

I

相続財産

3000万円

3000万円

1500万円

1500万円

みなし財産

5000万円

非課税財産

 

 

 

 

0

3000万円

3000万円

1500万円

1500万円

5000万円

 課税価格の合計 3000万円+3000万円+1500万円×25000万円

         =14000万円

  Iは相続を放棄していますが、みなし財産である生命保険金を受け取っていますので、遺贈で取得したものとみなされます(法31項)。またIは相続放棄していますので、「相続人」に当たらず、非課税財産の恩典を受けられません(法1215号)。

 

4 基礎控除額の計算

  基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数、として計算されます(相続税法151項)。そこで、本件では法定相続人の数は、EFJK4人と思いがちですが、実際は、相続放棄をした長男Iだけなのです。法152項で、「相続放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数」と規定されています。ですから、本件でIが相続放棄をしなければ、法定相続人は、第一順位の相続人としてIのみです。

  したがって、基礎控除額は、3000万円+600万円×13600万円、となります。もし4人なら、3000万円+600万円×45400万円、です。これは、税法が、相続放棄をしたかどうかで、相続税の総額が変わらないようにしているのです。税法は抜け目ないですね。

 

5 相続税の総額の計算

  基礎控除額が3600万円ですから課税遺産額は、

   14000万円-3600万円=1400万円

 となります。

  法定相続人はI1人として計算しますから

   1400万円×0.41700万円=2460万円

 となります。相続税は、課税価格が多くなると税率も高くなる超過累進税率ですから、4人が法定相続人である場合よりも、相続税の総額はずっと多くなります。

 

6 算出税額の計算

  各人ごとに算出税額を算出しますが、その前に按分割合を計算します。これは各人の課税価格を課税価格の合計で除して算出します。

E

3000万円÷14000万円=

0.21

F

3000万円÷14000万円=

0.21

J

1500万円÷14000万円=

0.11

K

1500万円÷14000万円=

0.11

I

5000万円÷14000万円=

0.36

合計

1.00

  按分割合は、小数点第3位を四捨五入しましたが、合計1.00になれば、四捨五入でなくてもかまいません。税務署は、算出税額の合計が相続税の総額になれば、どのように分けようと関知しないのです。

  それでは、それぞれの算出税額を計算します。

E

2460万円×0.21

5166000

F

2460万円×0.21

5166000

J

2460万円×0.11

2706000

K

2460万円×0.11

2706000

I

2460万円×0.36

8856000

合計

2460万円

 

7 2割加算

  相続又は遺贈により財産を取得したものが被相続人の1親等の血族又配偶者以外である場合、算出税額に2割加算します(法181項)。これは、被相続人からみて2親等以上であるときは、幾分棚ぼた的要素がありますので、少し多めに税金を払えということでしょう。

  そこで各人の納める税額は次のようになります。

E

5166000円×1.2

6199200

F

5166000円×1.2

6199200

J

2706000円×1.2

3247200

K

2706000円×1.2

3247200

I

8856000

  Iは相続放棄していますが、第1親等の血族ですから2割加算はありません。

投稿者 小山法律事務所 | 2017年7月24日 10:52

事業再生と財務分析(1) 【弁護士 小山治郎】

窮境状態にある企業が事業再生に取り組む場合、法的再生でも私的再生でも、合理的かつ実行可能な事業計画を設定しなければなりません。そこで今回は、事業計画書作成において欠かせない損益分岐点分析について説明します。

 損益分岐点とは、利益も損失も出ない売上高を言います。利益は、売上高から費用を控除した残額ですが、費用は固定費と変動費に分解できます。固定費は売上高が変動しても変動しない費用で、正社員の基本給などです。変動費は、製造業における材料費のように、製品の製造・販売に比例して増減する費用です。

 以上から、次の恒等式が成り立ちます。

 利益=売上高-固定費-変動費

 利益+固定費+変動費=売上高

 売上高=利益+固定費+変動費

 損益分岐点は利益がゼロの売上高ですから、損益分岐点売上高をPとすると

 P=固定費+変動費

 となります。

 ここで変動費率、すなわち売上高に対する変動費の割合をtとすると、上の式は、

 P=固定費+P×変動費率

となります。

 これを変形すると

 PP×変動費率=固定費

 P=固定費/(1-変動費率)

となります。

 ここで、(1-変動費率)を限界利益率といいます。

限界利益率とは、売上を1単位増やすとどれだけ「利益の増加又は固定の回収」に貢献するかを示す割合です。

 結局、損益分岐点売上高は、固定費を限界利益率で割ればよいのです。

 例を使って説明します。

  例1    

固定費:350万円 

変動費率:30%

    実際の売上高:700万円

    限界利益率:1-0.3=0.7

    損益分岐点:350万円÷0.7=500万円

    利益:700万円-350万円-700万円×0.3=140万円

 例1は、140万円の利益が出ているケースですが、次は損失が生じているケースを示します。

 例2  

  例1の実際の売上高を450万円とします。

  利益(損失)=450万円-350万円-450万円×0.3=35万円

  事業再生を必要としている企業は当然、例2のように、損失が出ている場合が多いです。

そこで、以上から、事業再生計画のポイントを把握します。

 ポイント1は、当然ですが、売上高を増やすことです。売上高を損益分岐点売上高より多くすることです。当然会社の経営者は売上高を増加させるために死に物狂いで日夜頑張っているのですから、これは分かり切ったことです。しかし適切な経営戦略に欠けるため売り上げが伸びないケースもあります。売上を伸ばすためには、事業分析(事業DD)が効果的ですが、中でもSWOT分析で、自社の強みと市場のニーズを分析し、両者が一致するところに経営資源をより多く投入することです。

 ポイント2は、固定費を削減することです。先ほど説明しましたように、損益分岐点売上高=固定費/限界利益率(1-変動費率)、ですから、分子の固定費を削減すれば損益分岐点売上高は低下します。すなわち同じ売上高でも利益は増加します。

 固定費を削減する方法の代表はリストラですが、従業員の解雇は最後の手段です。そのほかの費目でも、製造原価や販管費の各費目を分析すると、削減できる固定費部分はかなりあります。

 ポイント3は、変動費率を下げることです。固定費/限界利益率における分子の固定費が不変でも、分母の限界利益率を高める、言い換えれば分母の変動費率を削減すれば、損益分岐点は下がります。

 変動費削減の例としては、無駄な残業を省く等、労務管理をしっかり行う、無駄な材料費が出ないよう、製造工程の管理を怠らないこと等です。

  事業再生に必要な損益分岐点分析はここまでにしておきます。

 

投稿者 小山法律事務所 | 2017年6月28日 21:22

家業的零細企業と事業再生 【弁護士 小山治郎】

最近の事業再生は、第二会社方式が多いです。これは、窮境状態にある会社が、会社分割又は別途設立した会社に事業譲渡し、その会社は倒産処理して消滅させるものです。窮境状態にある会社でも、事業価値のある部門は存続させる方が雇用確保等、社会的観点からも好ましいことはいうまでもありません。第二会社方式においては、通常、再生ファンドの支援を受けて、重要な資産を第二会社に移転すべく債権者と条件につき交渉することになります。

 しかし小規模企業の中には、工場社屋も借り物で、旧式の機械を使い、代表者の家族を中心に、実質的に家業として経営しているところもかなりあります。このような会社(以下「家業的零細企業」といいます)は、年商が1億円以下で、従業員は代表者を入れて5、6人程度です。家業的零細企業が窮境状態にあっても再生ファンドは見向きもしないのが普通です。また目ぼしい資産で担保価値のあるものはないのですから、再生ファンドを利用する必要性もありません。それでは、事業価値はあるが多額の債務を負っている家業的零細企業が第二会社方式で事業再生するにはどうしたらよいでしょうか。

 このような家業的零細企業は、金融機関から大幅な債権カットを受けなければ、いずれ倒産することは明らかです。しかし民事再生申立には多額の費用がかかりますし、仕入先等の信用も失います。金融機関に大幅な債権カットを申し入れても、まず相手にされません。

 私は、従業員である親族の1人に退職金を支払い、その元従業員が退職金を資本金として第二会社を設立し、その第二会社が機械等の会社資産を簿価で買い取る方法により家業的零細企業を事業再生する方法をお勧めします。

 この場合、仕入先や得意先に対しては、第二会社を紹介し、今後は第二会社と取引してもらうよう依頼しておきます。そして会社は、機械等資産の売却代金を予納金等として破産申立てをします。

 このスキームで問題となるのは、資産等を簿価で第二会社に譲渡するに当たり債権者保護手続を経ていないということです。すなわち、この会社の実質的価値は簿価を超えるかもかもしれません。この超える部分は営業権(のれん)に相当します。しかし零細企業の営業権価値はほとんどゼロに等しいと思います。重要な特許権等知的財産権を有していれば別ですが、一般の零細企業の行う事業については、小資本で参入可能です。このように参入障壁がない事業の営業権価値(のれん)はほぼゼロといえます。

 以上から、家業的零細企業が簿価で資産を譲渡しても、それを知った金融機関等債権者が詐害行為取消権(民法424条)を行使したり、破産管財人が否認権(破産法160条以下)を行使することは、まずありません。仮に微妙な場合でも詐害行為取消権や否認権は、以下の理由により行使すべきではないと思います。

 もし、上記のような家業的零細企業が第二会社方式を利用せず、破産申立をした場合、価値ある事業が消滅し、従業員は失業します。そして経営者保証をしている経営者自身も破産することになります。家業的零細企業の経営者は普通高齢であり、失業して生活保護を受けることになります。

 すなわち、家業的零細企業が事業再生できなかった場合、従業員の失業により所得税等、国等の税収が減少するばかりでなく、失業手当や生活保護費等社会保障関係費が増加することになります。

 現在、国の最重要課題は税収を増やし社会保障関係費を抑制することです。上記家業的零細企業の事業再生方式は、この喫緊の課題に適合するものであり、当然に認められるものと考えます。

 家業的零細企業が上記の第二会社方式を採用した場合、多額の債務から解放されるばかりでなく、会社設立から2年間は消費税がかかりませんから、事業再生は順調に進みます。

 私の関与している会社で、この第二会社方式により再生し、現在は多額の法人税を納めるほどになっています。

投稿者 小山法律事務所 | 2017年6月28日 21:21

本日の勉強会 (弁護士 齋藤信子)

当事務所では、定期的に勉強会を開催し、各弁護士の知識や経験を共有し、研鑽を積んでおります。

本日の勉強会では、不動産競売についての発表がありました。

発表者が不動産競売の競売手続の流れを細かく説明し、各弁護士がそれぞれ経験に基づいて議論したり、手続を進める上で注意しなければならない点を発言していきます。

今回の勉強会でも、知らなかったことを学び、注意しなければならない点を確認することができました。

 

事務所に入所したばかりの頃は、勉強会で複雑な議論になった際に、話についていけないこともありました。

しかし最近では、私の経験について発言したり、議論に参加することができるようになり、自分が少し成長していることが実感できます。

 

また、自分の理解が深まっていると、文献や判例を読むときに、勉強する前よりも理解が早くなり、調べもの自体が楽しくなってきます。

調べたり報告したことについて、実際の相談や事件処理に生かすことができた時には嬉しく感じます。

どんな事件にも、時間をかけて調査し、理解を深められる点が必ずあります。

ご依頼いただいた方の問題解決に活かせるよう、今後も研鑽を積んで行こうと思っております。

 

投稿者 小山法律事務所 | 2016年1月29日 20:18

よくわかる相続の法と税務(3) (弁護士 小山治郎)

よくわかる相続の法と税務(3)

弁護士 小山治郎

 今回は3年以内の贈与があった場合の設例で相続税を検討します。

 設例3

 A(被告相続人)は、妻B、長男C、長女Dを残して亡くなりました。遺言はなく、遺産は次のとおりです。

 預金             5000万円

 上場株式           5000万円

 債務(葬式費用等を含む)   2000万円

 

 Aは、Bを受取人とする5000万円の生命保険に加入していました。また2年前にCに対し、自宅の建築資金として2000万円を贈与していました。

1 遺産分割

 遺産分割において、法定相続分に応じて分割し、上場株式はBが取得することにしました。またBは生命保険金5000万円を取得していますので、債務2000万円はBが負担することにしました。

 遺産総額

  預金5000万円+上場株式5000万円+特別受益(建築資金)2000万円

 =1億円2000

 各相続人の相続分

   B 

    1億円2000万円×1/2=6000万円

    内訳 上場株式5000万円 預金1000万円

    但し、債務2000万円を負担、そのほか生命保険金5000万円

   C

    1億2000万円×1/2×1/2-2000万円=1000万円

    内訳 預金1000万円

   Dさん

    1億2000万円×1/2×1/2=3000万円

    内訳 預金3000万円

 債務2000万円につき、Bが全部負担しても債権者は相続人全員に対し、法定相続分に応じて請求できますが、相続税法上は遺産分割での合意に基づき課税価格を計算します。

2 課税価格の計算

 生命保険金(みなし相続財産)にかかる非課税財産の計算

  法定相続人の人数×500万円=3×500万円=1500万円

 各相続人の課税価格は次のようになります。

          B      C       D   合計

本来の相続財産 60,000,000  10,000,000  30,000,000 

みなし相続財産 50,000,000

非課税財産  15,000,000

債務控除   20,000,000

生前贈与加算         20,000,000             

合計      75,000,000  30,000,000  30,000,000 135,000,000

 

3 相続税の総額の計算

 課税価格の合計は1億3500万円と計算されましたので、これから基礎控除額を差し引き、法定相続人が法定相続分に応じて相続したと仮定して相続税の総額を計算します。基礎控除額は、新法によると

 3000万円+法定相続人の人数×600万円となります。

 したがって本件では

 3000万円+3×600万円=4800万円

 となります。

 よって、基礎控除後の課税価格は

 1億3500万-4800万円=8700万円

 となりますので、相続税はかかります。

 次に各人の相続税を計算し合計します。

  Bさん 8,700万円×1/2×0.1550万円=6025000

  Cさん 8,700万円×1/2×1/2=    2175000

  Dさん                  2175000

      相続税の総額           10375000

4 算出税額の計算

 相続税の総額が出ましたので、各人の算出税額を計算します。按分割合は2で計算した課税価格を基に計算します。

 B 75,000,000÷135,000,0000.556

 C 30,000,000÷135,000,0000.222

 D 30,000,000÷135,000,0000.222

  合計           1.000

 按分割合は、割り切れない場合、合計が1になるように小数点2位未満を調整します。

 各人の算出税額は次のとおりです。

  B 10375000円×0.5565768500

  C 10375000円×0.2222303200円(100円未満切り捨て)

  D             2303200

5 納付すべき税額

    配偶者の税額軽減額の計算

Bについては、被相続人の配偶者ですので、配偶者の税額軽減があります。次の算式による税額が控除されます。

 相続税の総額×法定相続分又は1億6000万円の多い方/課税価格の合計

 本件では 10375000円×16000万円/13500万円

12296200円となります。

 したがってBの算出税額より軽減額の方が多いので、Bに相続税はかかりません。

   Cの場合は、贈与税額控除があります。

 C2年前に建築資金として2000万円の贈与を受けていますので、この時贈与税を支払っているはずです。その分を税額控除しないと二重課税となってしまいますので、Cの算出税額から控除します。

また建築資金の場合、特例により平成25年の贈与税法では700万円(普通の住宅用家屋)の控除が認められています。

 そこでC2000万円につき納付した贈与税は

 (20,000,000円-7,000,000円-1,100,000円)×0.5225万円

370万円

となります。

    一方Cの算出相続税は2303200円ですから、

2303200円-370万円=1396800

となり、1396800円が還付されることになります。

   Dにつては、特に税額控除はないようですので、納税額は、2303200円となります。

投稿者 小山法律事務所 | 2013年11月 8日 09:00

よくわかる相続の法と税務(2) (弁護士 小山治郎)

よくわかる相続法と税務(2)

                   弁護士 小山治郎

今回は比較的簡単な相続事例をもとに各相続人の相続税まで計算をしてみましょう。

 設例2

  A(被相続人)は、配偶者B、長男C、次男D、そして長女Eを残して死亡しました。遺産は、預金7000万円だけです。

 Aは、3000万円の生命保険契約があり、自分で保険料を支払い、受取人をBと指定していました。

 長男Cは、Aから5年前に1000万円の贈与を受けています。

 長女Eは相続放棄しました。

 Aの遺言はありません。

1 遺産分割

 遺産分割では、各相続人の合意によりどのようにでも分割できますが本件

では法定相続分に基づき分割することにしました。

 しかし遺産は預金7000万円だけですが、Cには1000万円の特別受益(民法903条)がありますので、計算上これを7000万円に加算することになります。贈与を持ち戻すとき、相続開始時点の価額で評価しますが、貨幣価値は5年前と変わりないものとして、加算すべき金額は1000万円とします。一方、生命保険金については、前回も述べましたように受取人固有の権利として特別受益には当たりません。

 各相続人の相続分は以下のとおりとなります。

 B (7000万円+1000万円)×1/2=4000万円

 C 8000万円×1/2×1/2- 1000万円=1000万円

 D 8000万円×1/2×1/2=2000万円

 E 相続放棄しているので相続分なし

 

2 相続税の課税価格の計算

 まず各相続人の課税価格を計算し、それを合計します。

   B

本来の相続財産          4000万円

みなし相続財産  生命保険金   3000万円

非課税額            2000万円

                 5000万円

生命保険金の非課税額は以下のように計算します。

非課税限度額=500万円×42000万円(法定相続人の人数には相続放棄した人も含みます)

本件で生命保険金を取得した者はBだけですから、非課税限度額2000万円全てをBが使えます。

   C

 本来の相続財産          1000万円

                  1000万円

 Cは、5年前に1000万円の贈与を受けていますが、課税価格の計算上無視されます。相続税法上課税価格に加算されるものは3年以内の贈与のみです。

   D

 本来の相続財産         2000万円

                 2000万円

以上から課税価格の合計は、5000万円+1000万円+2000万円

  =8000万円となります。

3 相続税額の総額の計算

 まず、課税価格の合計額から基礎控除額を控除します。控除額は、課税の公平の観点から、相続放棄した人も含めて、5000万円+1000万円×49000万円と計算されます。

 したがって基礎控除後の金額は、8000万円-9000万円

1000万円となります。

基礎控除後の金額がマイナスになる場合、どのように遺産分割をしようと相続税は一切かかりません。

しかし、平成27年1月1日以降の相続については、基礎控除の計算式は次のようになります。

 基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数

 よって新法に基づき、本件の基礎控除額を計算すると

 基礎控除額=3000万円+600万円×45400万円

となり、基礎控除後の課税価格は

 8000万円-5400万円=2600万円

となり、相続税がかかることになります。

 あと1年余りで新法が適用されますので、以下、新法を基に相続税の総額を計算してみましょう。

(1)法定相続人が法定相続分に応じて相続したと仮定してそれぞれの相続税

額を計算します。法定相続人には相続放棄した人も含みます。これは相続放棄した人を入れないと、相続税は累進課税ですので相続税総額が大きくなり、相続放棄した人がいない場合との間で不公平が生じるからです。

 Bの課税価格 2600万円×1/2=1300万円

Cの課税価格 2600万円×1/2×1/3=4,333,000

                     (千円未満切り捨て)

DEの課税価格 4,333,000

 次に各人の課税価格に相続税率を乗じて相続税を計算します。相続税の税率表を基に計算します。

 Bの税額 1300万円×0.1550万円=145万円

 CDEの税額 4,333,000×0.1433,000

 よって相続税の総額は

  145万円+433,000円×32,749,900

 となります。

4 各相続人の算出税額の計算

 各相続人の算出税額は、相続税の総額に按分割合を乗じて計算します。

 按分割合は、2で計算した各相続人の課税価格を課税価格の合計で除して算定します。割り切れない場合は、小数点2位未満を相続人間で調整できます。

 Bの按分割合

  5000万円÷8000万円=0.625

 Cの按分割合

  1000万円÷8000万円=0.125

 Dの按分割合

  2000万円÷8000万円=0.25

 次に各相続人の算出税額を計算します。相続税の総額は3で計算した

        2,749,900

 です。

 Bの算出税額

  2,749,900円×0.6251,718,600

                 (100円未満切り捨て)

 Cの算出税額

  2,749,900円×0.125343,700

 Dの算出税額

  2,749,900円×0.25687,400

5 各相続人の納付すべき相続税額

 納付すべき相続税額は、算出税額に基づき、配偶者税額軽減、贈与税控除、未成年者税額控除などを適用して算出されます。

   Bの納付すべき税額

BAの配偶者ですので、次の算式による税額が軽減されます。

相続税の総額×法定相続分又は1億66000万円の多い方÷課税価格の合計額

本件では、

 2749900円×16000万円÷8000万円=5499800

したがって本件では税額軽減額がBの算出税額を上回りますので、Bには相続税がかかりません。

    CDさんの納付すべき税額

 CDが未成年者であれば、一定額の税額控除があります。

 Cは、Aから1000万円贈与を受けていますが、5年前ですので、贈与税額控除はありません。3年以内でしたら、贈与額を課税価格に加算して算出税額を計算した上、納めた贈与税相当額が控除されます。この規定は近い将来の相続を予期して相続税回避目的で贈与するのを防ぐ趣旨です。

投稿者 小山法律事務所 | 2013年11月 1日 09:00


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